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早期再分極におけるJ波の出現機序とBrugada症候群との関係は?

No.4972 (2019年08月10日発行) P.56

丸山 徹 (九州大学キャンパスライフ・健康支援センター 教授)

登録日: 2019-08-08

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心電図にみられる早期再分極においてJ波が出現する機序をご教示下さい。また,Brugada症候群においてもJ波は出現すると聞きますが,どのような機序でしょうか。

(高知県 F)


【回答】

【J波が遅延脱分極波か早期再分極波かの結論は出ていない】

心電図上のJ点とはQRS波とST部分の境界点を指し,J点が基線から上昇する所見は胸部誘導のV2~V4誘導で多く認められます。J波とはQRS波の終末部分に認められるノッチ状やスラー状の波形の総称で下方誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF),左側胸部誘導(V4~V6誘導)に多く,J点とは区別されます。J点の上昇とJ波は共存することもしないこともあります(図1)。

J波はこれまで早期再分極波であると広く認識されてきました。その大きな根拠はAntzelevitchらの基礎実験でした。心内膜側と心外膜側では心筋活動電位の早期再分極相で電位差が生じるため,これが体表面心電図のJ波に反映されるとする考えです。この電位差は心拍数や自律神経の影響を受けやすく,J波が先行する心室細動が夜間や食後に多い現象をうまく説明できます。心表面マッピングでもJ波が心室興奮の終了後に早期再分極相で記録されることが確認されています。

しかし,最近になりJ波が遅延脱分極波であることを支持する報告が出ています。1つ目はJ波と加算平均心電図の関係です。加算平均心電図とは心電図信号を多数加算平均処理することでランダムノイズを相殺し,体表面微小電位を増幅することで心室遅延電位を検出する検査法です。J波が加算平均およびフィルター処理後のQRS部分に含まれることはJ波が遅延脱分極波であることを示唆します。2つ目はJ波を有する多くの例で乳頭筋や仮性腱索を認めることです。これらの心室内構造物の脱分極が心室興奮の最後尾としてJ波の形成に関与することも予想されます。一般に心拍数が増加すると,脱分極異常は顕著になり再分極異常は目立たなくなりますが,J波は心拍数の増加で増高する例も減高する例もあります。

J波が遅延脱分極波か早期再分極波かの結論はまだ出ておらず,J波が出現する病態を一律に早期再分極症候群と呼ぶべきかも問題です。そこで最近ではJ波症候群と呼ぶことが多いようです。

Brugada症候群は右側胸部誘導にST上昇を認め,夜間に心室細動などによる突然死をきたします。V1~V3誘導のJ点が0.2mV以上の上昇を示すcoved型(タイプⅠ)が最も要注意です(図1)。先のAntzelevitchらは,右側胸部誘導をJ波の出現誘導とするJ波症候群としてBrugada症候群を解釈しています。実際に,Brugada症候群の症例で右室流出路の心内膜側と心外膜側から電気現象を記録すると,基礎実験と同じく早期再分極説を支持する結果が得られています。一方で,Brugada症候群では心外膜側に伝導遅延や線維化を認める例があり,心筋焼灼術の標的部位とされています。早期再分極と遅延脱分極は相補的にBrugada症候群の病態に関与すると考えるべきでしょう。

【回答者】

丸山 徹 九州大学キャンパスライフ・健康支援センター 教授

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