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縫合不全、消化器外科医の闘い[エッセイ]

No.4946 (2019年02月09日発行) P.64

中田一郎 (白十字総合病院外科)

登録日: 2019-02-10

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消化管に発生した悪性腫瘍などに対する根治的外科手術法は、①原発巣の完全除去、②所属リンパ腺郭清、そして③消化管再建である。再建法としては、下部直腸癌あるいは肛門癌に対する直腸切断術、人工肛門造設術以外は、消化管吻合が施行される。それらは、食道-胃、食道-空腸、胃-十二指腸、胃-空腸、小腸-小腸、小腸-結腸、結腸-結腸、結腸-直腸、結腸-肛門、小腸-肛門などのそれぞれの吻合である。

その際、大変に困った合併症は縫合不全である。縫合不全とは、縫合部の接着が癒合に至らず、一部または全部が開いて腸内容が漏れ腹膜炎を発症した状態をいう。これは術後の重篤な合併症のひとつである。

小生も消化器外科医の一人として、いかにこの合併症を防ぐか、また、発生した場合の早期対処法について常に考え手術を施行してきた。

縫合不全の原因の全身的要因は、①患者の低アルブミン血症である。血清アルブミン値3g/dL以下のときは、組織が浮腫に傾き組織修復が遅れるとされる。2g/dL以下では、縫合が組織癒合に至らず、この状態では吻合を避けるべきとされている。さらに、②高齢患者、重症糖尿病、進行癌の患者、腎不全、肝不全等の重症慢性疾患患者に対しても注意を要する。

局所的要因としては、①吻合部の血行不足、②吻合局所の感染、③吻合部腸管内圧上昇、④吻合部の牽引、緊張、⑤吻合部の固定不足、などがある。

対策法として、①吻合部の血行が十分に維持されていることを確認すること、②吻合終了後に、止血は十分に行い血腫をつくらないこと。さらに生食水にて洗浄し、排液が十分に行われるようにドレナージを行うこと、③吻合部腸管内圧上昇を防ぐために、術前に腸管内容の排除に努めること、④吻合腸管は十分な長さを取り、吻合部に牽引、緊張がかからないようにする。時には、近隣組織に固定することも重要である。

その他、吻合部位によって吻合の難易度に差が認められることは既に知られている。すなわち、①漿膜を持たない食道と下部直腸との吻合(縫合に漿膜を利用すると吻合の強さが増す)、②他臓器に比して血行の乏しい結腸-結腸吻合の場合などでは縫合不全が起こりやすいと考えられており、注意を要する。

縫合創の治癒経過について、一般に、①初めは縫合糸の張力と組織の弾力性で吻合は強固に完成する、②2~3日目頃、糸に締め付けられた部分の壊死、周辺組織の浮腫、炎症のため張力は最も低下するとされる、③4日目頃から線維芽細胞の活動が盛んとなり、④5~6日目で強固さを増し、⑤7日目で吻合は完成、⑥10~12日目で強さは頂点に達する、とされている。

消化管吻合の縫合法は、時代とともに変化してきた。小生が研修医の頃であった約40年以上前は、いわゆるアルベルト-レンベルト(Albert-Lembert)内翻二列吻合(以下A-L吻合)、すなわち全層縫合、漿膜筋層縫合が一般的であった1)。その際、縫合針は弾機孔(バネ孔)付き腸用3号針、そして糸は絹糸を使用していたことを記憶している。その後、atraumatic needle(吸収糸付縫合針)が使用されるようになり、最近では、腸管自動吻合器による器械吻合が一般となっている。

過去に佐藤光弥氏は、日本大腸肛門病学会誌2)に腸管自動吻合器EEAによる腸管吻合創治癒過程の形態学的観察を報告し、手縫い吻合法(A-L吻合、Gambee吻合)のそれと比較検討した。その結果、EEA吻合は、創癒合でGambee吻合と比較するとやや遅れることが報告された。すなわち、EEA吻合部は、吻合当初には高度の粘膜欠損状態で、しかも内翻された腸管は、その全層面が腸管内に露出しているなど独特な吻合法であり、再生上皮形成が盛んになるのは術後7日目、そして粘膜の完全修復までには約14日間を要したという。しかし、EEA吻合は術後の狭窄も少ない方法であったこと、深部操作でも確実かつ操作が容易であること、手縫い吻合の縫合不全発生率は、A-L吻合で9.1%、Gambee吻合で10.7%であったが、器械吻合では5.1%であったことなど、器械吻合の優位性を報告している。

この47年間、以上の事柄を十分に留意し、手術、吻合を施行してきたが、いまだに縫合不全に対する警戒心があり、心配である。術後の発熱、脈拍増加、腹部所見、CRP値上昇などに留意し、必要ならば腹部CT検査などを施行し、縫合不全発生を早期に診断し対処したいと思っている。

【文献】

1) 陣内傳之助:術前術後の管理と合併症. 金原出版, 1970, p250-3.

2) 佐藤光弥:日本大腸肛門病会誌.1984;37(3):216-27.

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