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生きられる時間─It goes on[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.12

西田俊朗 (国立がん研究センター中央病院病院長)

登録日: 2019-01-01

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私は、未だに親しい人には、年賀を出している。そういうことを続けていると、師走に入ると喪中はがきが届く。40歳半ばを過ぎた頃から、その喪中はがきが多くなった。当時、知人のどちらかのご両親が身罷られた、と言うものが多かった。還暦を迎え、気がつくと同世代の訃報が届くようになった。昨年、つい最近まで元気に活躍していた同年輩の現役病院長が亡くなった。私は今年63歳になる。平均余命は21年である。日に直すと7600日少々。こう数えると先が見える。

40歳になる頃から、毎年、人間ドックを受診している。最初は、子どもも小さく、働き手の私が倒れたら家族が路頭に迷うと言う想いで行った。初期には何も異常は見つからなかった。その後、胆囊に「腫瘍」が見つかり、胆囊を取った。結果は悪いものではなかったが、年とともに肺は閉塞性障害を示し、視力は落ち、聴力低下が目立ち、最近は血圧も血糖値も高い。ここ2~3年、検診を受ける度に、要精査項目が増える。

周りを見ると、昨年は、ことのほか災害が多かった。年始の豪雪に始まり、夏には記録更新の猛暑、7月の西日本豪雨、関空が浸水した台風第21号、大阪府北部地震、北海道胆振東部地震等々と続く。天災だけではない。河瀬駅前交番警察官射殺事件や仙台の警察官殺害事件のような市民の安全を守る交番での事件、これまで安心・安全の象徴であった新幹線の台車亀裂や、のぞみ265号殺傷事件等予想だにしなかった事件である。これは既にblack swan問題である。

black swanの羽ばたきを聞くと、のんびりと老後の人生計画を立て、検診結果で悩んでいていいのか、と言う気になる。昨日まで、毎日がこれからもずっと続くと思っていた。しかし今は、今日が明日へと必ず続くとは思えない。でも、誰かが言った。In three words, I can sum up everything I’ve learned about life;“It goes on”。今日と言う日の重みがいっそう増した。「明日死ぬと思って生きなさい。そして、永遠に生きると思って学びなさい」。生きられる時間が見えてきた私には重い言葉である。

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