株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

忘れられない症例 ─医師一年目の経験

No.4937 (2018年12月08日発行) P.3

木村 正 (大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室教授/大阪大学医学部附属病院病院長)

登録日: 2018-12-08

最終更新日: 2018-12-05

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 世の中は医療職の「働き方改革」で騒がしい。我が阪大病院も対応に追われている。これは24時間365日いつでも働くのが当たり前だ、と思われていた昭和60年の話である。

    産科主任の先生から、「木村君、ちょっと妊娠中毒症(現・妊娠高血圧腎症)のひどいのがおるんやけど」と声がかかり、受け持ちとなった。妊娠29週、背景にバセドウ病があり、重症高血圧、頻脈、微熱を伴い胎児発育遅延があった。内科の指導を受けつつ甲状腺機能を安定させ、帝王切開(今なら恐らく経腟分娩を試みる)を行った。その間、容体は不安定でヒヤヒヤして泊まり込んだ。帝王切開で生まれた赤ちゃんは早産児だがとても元気であった。

    術後、皆がほっとして私も帰宅することにした。家に帰って一息ついているとポケットベル(懐かしい!)が鳴った。電話すると、呼吸困難で起座呼吸とのこと。今なら専攻医レベルの必須知識だが、甲状腺機能が亢進した上に帝王切開後の循環血液量の負荷がかかり、心不全を起こし肺水腫に至る最も輸液管理の必要度が高い時に帰宅していた。心不全?肺水腫?と学生時代の知識を動員しようとするが役に立たず、ジギタリス、利尿剤、輸液管理と内科と産科の指導医の指導を受けながら、心配でたまらずずっと病院に泊まっていた。この患者さんに全身管理を教えてもらった。忘れられない「修行」となった。

    残り336文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    関連求人情報

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top