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(1)脳の立場から[特集:脳−心−腎連関と認知症]

No.4927 (2018年09月29日発行) P.28

内藤裕之 (広島大学大学院脳神経内科学)

細見直永 (広島大学大学院脳神経内科学准教授)

登録日: 2018-10-01

最終更新日: 2018-09-26

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近年,認知症と循環器疾患,慢性腎臓病との関連が注目され,血管性危険因子の管理が脳血管性認知症だけでなくアルツハイマー病の治療においても重要視されている

心房細動は認知症の危険因子である可能性が指摘されており,脳卒中を伴わない場合でも認知症リスク上昇との関連が報告されている。心房細動による認知症の発症機序については解明されていないが,心房細動に伴う脈拍変動や心拍出量低下による脳低灌流や脳小血管病変(無症候性微小脳塞栓,微小脳出血),血管炎症などが原因として推定されている

腎機能低下と認知機能低下との関連が明らかになってきており,透析期に至らない軽度〜中等度の慢性腎臓病においても高頻度に認知症がみられる。慢性腎臓病の認知機能低下は血管性危険因子によるところが多いと考えられるが,アルツハイマー病などの神経変性疾患との関連についても指摘されている

最近の臨床試験の結果は,血管性危険因子の管理が認知症の進行抑制に重要であることを示唆している

1. 「脳─心─腎連関」における認知症

超高齢社会を迎えるわが国において,認知症は65歳以上の14%が罹患しており,大きな医療・社会問題となっている。厚生労働省の推計では,2025年には認知症高齢者は700万人まで増加すると予想される。こうした傾向は世界的にも認められており,認知症の予防・根本治療薬の開発が迫られている。認知症の原因疾患として,アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD),血管性認知症(vascular dementia:VaD),Lewy小体型認知症が挙げられ,中でもADは認知症の約半数以上を占める。

ADは1906年にアロイス・アルツハイマーにより,最初に症例報告された認知機能障害を主症状とする疾患である。海馬や側頭葉を中心とした脳萎縮を認め,病理学的にはアミロイドβ(Aβ)が脳実質に蓄積する老人斑や,タウが蓄積する神経原線維変化の存在で診断される。ADの治療では,原因となるAβをターゲットにした治療薬の研究が進んでいるが,現時点では根治療法は確立していない。

一方で,近年の様々な臨床研究により,高血圧,糖尿病,脂質異常症などの血管性危険因子が,脳血管障害を基盤とするVaDのみならずADに対しても後天的危険因子として注目されつつある。病理学的検討においても,過去にADと診断された4629人の剖検脳を再解析した結果,約8割で脳血管病変を合併していたことが報告された1)。また動物実験では,虚血刺激を与えたラット脳で,タウ蛋白の修飾においてADと共通した病理像がみられたことを筆者らは報告している2)。2011年に発表されたNational institute on aging-Alzheimer's association work-group(NIA-AA)によるADのガイドラインでは,ADが進行する病態においては,血管性危険因子や加齢に絡んだ危険因子,さらには防御因子として認知予備能などが病態を修飾することが言及され,ADの治療においても血管性危険因子管理の重要性が強調されている(図1)3)。さらに,心房細動や慢性心不全などの循環器疾患や慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)と認知症との関連についても報告されている。本稿では,認知症における「脳−心−腎連関」について概説する。

  

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