不眠治療の第一選択は非薬物療法であるが,実際の臨床では薬物療法と非薬物療法を併用することも多い
これまでよく使用されてきたベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬は,長期使用ではメリットよりデメリットのほうが上回る可能性が高い。このため,BZ系睡眠薬の副作用を軽減したZ-drugやメラトニン受容体作動薬,オレキシン受容体拮抗薬といった新規作用機序の薬剤が開発されてきた
睡眠薬の処方にあたっては有効性と安全性を考慮した薬剤の選択を行い,「start slow, go slow」の基本を守り,最小用量から開始しなるべく低用量で維持することが望まれる
睡眠薬は稀に好む患者もいるが,概して患者だけでなく,医師にとっても好かれる薬剤ではない。患者にとって薬など使わずに眠れるほうが自然であり,医師も睡眠薬は処方せずに済ませたい。不眠の治療の第一選択は薬物療法ではなく非薬物療法(認知行動療法)であるのは納得できる。
こうした中で,睡眠薬は有効性よりも安全性が重視され開発が進められてきた。強い依存性と自殺にも使われた致死的な副作用を持つバルビツール酸系の睡眠薬に代わって登場したのが,1960年代に登場したベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZ)系睡眠薬である。BZ系睡眠薬の登場は安全性の観点からすると飛躍的な創薬の進歩であり,臨床医にとっても使い勝手のよい薬剤であった。しかしながら,このBZ系睡眠薬も依存性や中止時の反跳性不眠や離脱症状といった副作用で薬剤の中止が困難となる事例が生じ,近年,その適正使用が求められるようになった。そして,BZ系睡眠薬のこうした副作用を軽減する薬剤として,BZ系睡眠薬と同様にγ-アミノ酪酸(gamma-Amino Butyric Acid:GABA)受容体に作用する非BZ系睡眠薬(一般名にZがつくことから“Z-drug”とも呼称される)や,GABA受容体とは異なった受容体に作用するメラトニン受容体作動薬およびオレキシン受容体拮抗薬が開発されてきた。
本稿ではこうした新たな薬剤を含めた睡眠薬の選択とその使用について概説したい。