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トラック競技の周回が反時計回りである理由は?【「人体の構造上走りやすいため」など諸説あるが,決定的理由を示す史料はない】

No.4903 (2018年04月14日発行) P.62

大林太朗 (筑波大学体育系)

登録日: 2018-04-12

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トラック競技で以前はオリンピックでも時計回り,反時計回りの両方があったと思います。いつからどのような理由で反時計回りになったのでしょうか。

(愛媛県 N)


【回答】

近代オリンピックにおけるトラック種目は,第1回アテネ大会(1896年)から第3回セントルイス大会(1904年)までは「時計回り」,第4回ロンドン大会(1908年)以降は一部の競技を除き「反時計回り」で実施されました。とはいえ,初期のオリンピックでは,陸上競技場の仕様に関する共通の規定はなく,たとえば1周あたりの距離(380.33mから536.45mまで)やコース幅などは,大会によって異なっていたようです。

国際的なルールが統一されたのは,1912年6月17日の国際陸上競技連盟(The International Amateur Athletic Federation:IAAF)創立後のことです。IAAFは,米国や英国を含む17カ国の参加により創始され,翌年の会議では競技規則の制定と世界記録の認定を行いました。その規則には,周回について“left-hand inside”=「左手が内側となるように走る」,すなわち「反時計回り」を示す規則が明記されました。

しかしながら,この決定理由を示す実証的な史料はなく,研究者の間では様々な説が挙げられています。以下に,その代表的なものを紹介します。

①人体の構造的特徴との関係:一般的に心臓は左にあり,人体の重心は左半身にかかりやすいため,反時計回りのほうが走りやすい。また,手は右利きが多いが,踏み切り足は左である人が多いため,左足で重心を支え進行方向を定める向きのほうが走りやすい。

②欧米の文字文化との関係:欧米では基本的に左から右に文章を綴る。したがって,読み手の視線も左から右に動くことになる。近代スポーツを形成した欧米の人々はこの視線の動きに慣れており,観客の目の前で走者が左から右に駆け抜けていくように設定した。

以上のほかにも,文献1)~3)には様々な説が挙げられています。上述のIAAFの決定以降,一部の伝統的な競技会を除き,世界各国の陸上競技では「反時計回り」が定着していきましたが,その根拠は明示されていない状況にあります。

【文献】

1) 奈良重幸:スポーツ史研究. 1994;7:51-7.

2) Hadi Tavakkoli M, et al:International Journal of Educational Development. 2013;2(4):23-30.

3) BBC:London 2012:20 lesser-spotted things of the Olympics so far. [http://www.bbc.com/news/magazine-19047586]

【参考】

▶ 岡尾惠市:陸上競技のルーツをさぐる. 文理閣, 1996.

【回答者】

大林太朗 筑波大学体育系

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