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【識者の眼】「早生まれ問題─生まれ月と競技成績はどこまで関係する?」鳥居 俊

No.5215 (2024年04月06日発行) P.62

鳥居 俊 (早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授)

登録日: 2024-03-19

最終更新日: 2024-03-19

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3月分の原稿を作成するにあたり、生まれ月で言われる「早生まれ」についての話題を紹介します。

大部分の国において学校生活は1歳ごとの集団で運営されますが、1歳の差は1年に限りなく近い364日の差より大きいとは限りません。スポーツ界ではこれまで、生まれ月が競技力(というよりも順位)に与える影響について調査がされてきました。陸上競技の小学生の全国大会の出場者は4〜6月生まれが多いこと1)、Jリーグアカデミーに所属する男子選手でも4〜6月生まれが明らかに多いこと2)が報告されています。プロ野球選手についても中山3)は1950〜2007年までの選手の生まれ月を調査し、4月生まれが3月生まれのほぼ2倍と報告しています。私自身もリオデジャネイロオリンピックの参加選手のうち選手数の多い陸上競技、競泳、サッカー、バレーボール、バスケットボールの選手の生まれ月を検討したところ、3カ月ごとにわけるとほぼ均等に分布していましたが、陸上競技で種目ごとにみると、短距離・ハードルは4〜6月生まれが多く、長距離や走高跳、棒高跳は1〜3月生まれが多いという結果でした4)

単純に考えると、当該学年で最も早く生まれた子と最も遅く生まれた子の出生からの年月の相対的な差は、分母に両者の平均値、分子に両者の差をとれば年少なほど大きく、年長になるほど小さくなるはずです。文部科学省の学校保健統計調査の身長のデータを用いて、各学年の平均値で前の学年からの増加量を割った値をみたところ、図のように相対値は女子では小4をピークに急減し、男子では小6をピークに漸減する結果でした。単純に解釈すると、男子では中2まで学年内でも4%近くの差が続くということになります。プロ選手にもみられる生まれ月の差は、年少時に年齢集団の中でより高いパフォーマンス発揮ができたことで正選手になる機会を獲得し、その経験が有利に働く可能性を示唆しています。

一方で、加藤ら5)は小学生大会で入賞した80名のうち中学生大会で入賞したのは8名にすぎないことを報告していることから、小学生大会では早熟な子が体格的に有利なために高順位になりやすく、体格が追いつかれると有利さがなくなる可能性を考えさせます。実際、同じ生まれ月であっても発育の早い(早熟)な子と発育の遅い(晩熟)な子は存在し、その差は体格だけでない可能性もあるでしょう。私自身は10月生まれですが晩熟で、中学1年時の身長が138cmで、短距離走などでは平均以上の体格の同級生とは勝負になりませんでしたが、高校に入り160cmを超えると速度も上がり、大学では陸上部で短距離を走りました。

生まれ月や早熟・晩熟による体格差がある年代では体育での結果が自信や好き嫌いにつながってしまう危険があります。実際に体育嫌いになった人たちの多くは、体育の時間の競争で評価されることが苦痛な体験だったと答えており、そこから一生にわたって運動を遠ざけてしまうことになっては残念です。身体を動かすことが心身の健康に与える効果は大きいと考えられ、体育でも楽しく身体を動かすことを経験することができれば将来の医療費を低減できるのでは、と思います。

【文献】

1) 井筒柴乃, 他:陸上競技研究紀要. 2014;10:4-8.

2) 広瀬統一, 他:発育発達研究. 2008;37:17-24.

3) 中山悌一:トレーニングジャーナル. 2008;30(3):48-53.

4) 鳥居 俊:日成長会誌. 2017;23:5-8.

5) 加藤謙一, 他:体育学研究. 1999;44:360-71.

鳥居 俊(早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授)[生まれ月体格差体育

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