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クワシオルコルの機序と我が国での症例

No.4684 (2014年02月01日発行) P.94

吉田貞夫 (沖縄リハビリテーションセンター病院内科)

登録日: 2014-02-01

最終更新日: 2017-09-27

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【Q】

発展途上国などで子どもの下腹部が膨れている症状(クワシオルコル)をよく見るが,その機序は。また,なぜ子どもに起こりやすいのか。クワシオルコルの治療・予後,我が国での症例について。
(東京都 O)

【A】

クワシオルコルは,主に蛋白質の欠乏によって発症する。酸化ストレス,炎症,腸内細菌叢の異常などの関与も示唆されている。小児は体重当たりのエネルギー,栄養素の必要量が多く,このような低栄養になりやすい

クワシオルコルは,後述するマラスムスと並んで,飢餓によって,主に小児に見られる栄養障害の病型である。

Williamsは,アフリカなど発展途上国の小児で,手足に浮腫を認め,皮膚病変や毛髪の異常を伴い,適切な治療を行わないと短期間で死亡してしまうという症状の栄養障害を観察し,これをクワシオルコル(kwashiorkor)という名称で紹介した(図1)1)2)。時に腹水の貯留が認められるのが大きな特徴である。

クワシオルコルの機序

Williamsの報告1)では,母親からの授乳が得られなくなったことが原因である事例が多いことから,クワシオルコルは,糖質を中心とした食事のみを与えられ,蛋白質が欠乏したために発症したと考えられた。蛋白質が欠乏すると,肝臓での蛋白質合成が低下し,低アルブミン血症を引き起こす。この低アルブミン血症が,浮腫や腹水の原因と考えられている。また,脂質の輸送・代謝に必要なリポ蛋白質が合成されないことによって,脂肪肝となることもある3)4)。小児は,活動量が多く,成長にもエネルギー,栄養素を必要とすることから,成人よりも体重当たりのエネルギー,栄養素の必要量が多いと言われている。このことが,小児がクワシオルコルのような低栄養になりやすい原因とも考えられる。

似たような低栄養は,成人でも敗血症などの重症の感染症や,手術後,外傷や熱傷などで代謝ストレスが亢進したり,疾患に対する治療のため十分な栄養が摂取できなかった場合,高齢者で食事摂取が困難となった場合などでも認められることがある。

Williamsの報告以後も,クワシオルコルの原因に関する研究が続けられ,クワシオルコルの発症には,単なる蛋白質欠乏のみならず,カビに含まれるアフラトキシンという毒物や,酸化ストレスの影響,炎症によるサイトカインの影響,腸内細菌叢の異常5)など,様々な因子が関連していると考えられるようになった。現在も研究が進められているところであるが,その詳細は未だ明らかにされていない。

我が国での発生状況

我が国においての発生状況は,上記のような治療中の場合などを除くと,母親の栄養についての理解が不十分なために発症した事例6)や糖尿病の治療中,心理的な問題によって発症した事例7)のような孤発例の報告が散見される。しかしながら,社会的な要因による多発例の報告はなく,1960年代に,へき地で行われた調査8)の報告があるが,罹患率の把握には至っていないようである。

我が国では,クワシオルコルが大きな社会問題となる可能性はあまりないと考えられるが,今後も母親の理解不足,貧困家庭,虐待などの個別の事情によってクワシオルコルを発症する可能性も考えられる。

クワシオルコルの診断と治療

冒頭にも記したように,クワシオルコルは死亡率が高く,きわめて予後の不良な低栄養状態である。したがって,浮腫や腹水,発育障害,皮膚の乾燥,亀裂,鱗屑状の皮膚病変,脱毛,毛髪の退色などといった,クワシオルコルを疑わせるような事例に遭遇した際は,必ず入院による適切な治療を受けさせることが必要となる。

クワシオルコルでは,蛋白質の欠乏がその原因である可能性が高いことから,良質な蛋白質の強化を中心とした栄養管理を行う。無気力で,食事が摂取できない場合は,経鼻胃管などを用いた経腸栄養も検討する。

クワシオルコルの発症に,感染症などによる炎症が関与している可能性も高いことから,併発疾患の精査も並行して行う。摂取すべきエネルギー量は,現体重のほか,健常時体重,炎症などによる代謝ストレスなどを考慮して算出し,必要十分量を補給するようにする。

このような極端な低栄養の症例に栄養療法を開始する際に,当初から多量の糖質(炭水化物)を投与すると,糖の細胞内への取り込みと同時に,リンやマグネシウム,カリウムなども細胞内に急速に取り込まれ,これらの欠乏症を来すことがある。これは,リフィーディング症候群と呼ばれ,発熱,痙攣,意識障害,心不全,呼吸不全などの重篤な症状を呈し,死に至ることもあると言われている。そのため栄養療法を開始する際は,少量から開始し,徐々に増量するよう,注意する必要がある。リフィーディング症候群は,栄養投与開始後,4日前後に発症することが多いと言われている。数日おきに,血清リン,マグネシウム,カリウムのモニタリングが必要である。低リン血症,低カリウム血症を認めた場合は,リン酸二カリウムを静脈より投与する。

腸内細菌叢の改善には,乳酸菌,ビフィズス菌などのようなプロバイオティクスの投与とともに,腸内細菌によって分解されやすい,グアガム加水分解物(partially hydrolyzed guar gum;PHGG)のような発酵性食物繊維が有効と考えられている。

クワシオルコルの発症には,母親など保護者の無理解や,虐待などが関与していることも考えられる。児童相談所による保護などの社会的な対策も積極的に検討していくべきと考えられる。


●文 献

1) Williams CD:Lancet. 1935;229:1151–2.

2) 高松英夫:キーワードでわかる臨床栄養 改訂版. 羊土社, 2011, p26.

3) 吉田貞夫:nutrition care. 2011;秋季増刊:44-9.

4) 吉田貞夫:nutrition care. 2012;秋季増刊:100-1.

5) Smith MI, et al:Science. 2013 ;339(6119): 548-54.

6) 上原朋子, 他:小児診療. 2006;69(10):1523-6.

7) 青木雄次, 他:プラクティス. 1992;9(3):260-3.

8) 守田哲朗, 他:栄と食糧. 1968;21(2):97.

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