◉川崎病診断の手引きが改訂され,不全型川崎病を含めた診断の分類が症状の数と冠動脈病変の有無から行われるようになった。
◉冠動脈病変の定義が絶対値から冠動脈内径のZスコアによるものに移行した。
◉川崎病の急性期治療は第9病日までに炎症を抑制することを最大の目標とする。そのためにはガイドラインに基づきながら,適切なタイミングで診断,不応の判断,追加治療を行う必要がある。
川崎病は,先進国では最も頻度が高い小児の後天性心疾患である。小児でも冠動脈瘤から虚血性心疾患になりえて,冠動脈後遺症を残すことで生涯にわたり影響が生じる。
川崎病については診断基準,治療法などが継続的に改善されている一方で,時に診断が難しい場合があることや治療抵抗性の問題などいくつかの課題があり,実際の臨床現場では悩ましい場面も多い。本稿では川崎病の診断と急性期治療について概説すると同時に,解決されていない問題や,臨床現場で困りがちな問題であるにもかかわらず確固としたデータやエビデンスがない事項については,私見も含めて対策を記載していこうと思う。
川崎病に関する最初の文献報告は,1967年に川崎富作博士によって川崎病50例について,実に45ページにわたってきわめて詳細に病像が記載されたものであった1)。この論文の中では既に現在の診断基準の基礎となる6項目の臨床症状が記載されていた。しかしながら,この時点では「後遺症を残さずに自然治癒する」と記載されていた。また,1970年には『川崎病診断の手引き』初版が発行された。この手引きでは,頸部リンパ節腫脹をのぞいた5つの主要症状のうち発熱を含む4つの症状を伴うものを川崎病と診断するとされていたが,この時点でも後遺症は残さないと記載されていた。
この疾患が認知されるようになり全国調査が行われたところ,死亡例が10例存在することが確認され,そのうち剖検された4例全例に冠動脈瘤と瘤内血栓が認められた。そのことから,この疾患が生命をおびやかしうる後天性心疾患であることが認識されるようになった。
1974年にPediatrics誌にこの冠動脈瘤と瘤内血栓について報告されると,海外でもこの疾患の症例が存在することが明らかになっていった。また,1996年,小児科学の代表的な教科書であるNelson改訂15版からは,川崎病が記載されるに至った。
なお,1974年の診断の手引き改訂第2版では必発症状が主要症状と記載されるようになるとともに,主要症状に非化膿性頸部リンパ節腫脹が加わって主要症状が現在の6つになり,そのうち5つ以上を認めるものが川崎病とされるようになった。
その後,川崎病の症状がすべてそろわなくても,冠動脈瘤を合併する場合があることが認識されるようになった。こうした症例は「川崎病容疑例」「不全型川崎病」などと呼ばれるようになったが,不全型の存在が,川崎病の診断をより困難にさせる場合があるのは事実である。最新の改訂第6版(2019年)は,この問題に対して限界はあるが,できるだけ対応できるよう考慮されて作成されている。
川崎病診断の手引きは新しい知見が集積されるたびに改訂がなされ,現在の最新版は第6版である。最新版は日本川崎病学会のホームページからも閲覧可能である。
第6版での主な変更点は以下の4点である。
・発熱の持続日数についての記載がなくなった。
・不定形発疹は発疹とされ,BCG接種痕の発赤が発疹の中に組み込まれた。
・不全型川崎病について記載がなされ,診断の方法と分類について記載された。
・冠動脈病変についてZスコアによる定義が記載された。
また,このほかに,診断をサポートする参考条項について整理・追加がなされたことと,四肢末端の変化の項で「掌蹠」を簡潔に「手掌足底」とする細かな表現の修正があった。
まず主要症状のひとつである発熱の持続日数についてだが,初期の川崎病診断の手引きにおいては5日以上の発熱と記載されてきた。診断の手引き改訂第5版では,発熱後5日経過する前に治療がなされて解熱している症例も多いことから,発熱の持続日数について「治療により5日未満で解熱した場合も含む」と記載されるようになった。しかしながら,川崎病の初期治療の開始を第5病日より前に行うことは,近年では特別なことではないと言える。経験を積んだ小児科医であれば,5日間の発熱を確認しなくても他の臨床症状や経過から川崎病の診断ができる,あるいは強く疑うことができる。また,後述するように,第9病日までに汎冠動脈炎を効果的に抑え込むことが冠動脈後遺症のリスクを下げるために必要であることを考慮すると,5日間の発熱を確認することのメリットは乏しい。そこで第6版ではこの5日間という記載は削除されるに至った。
BCG接種痕の発赤についてはこれまで川崎病の診断基準の項目には入っていなかったが,特に乳幼児において,かなり特徴的な臨床所見である。第5版などでは,特徴的な所見ではあるが,接種後1年程度の間しかみられない所見であること,海外ではBCGを接種している国は限られていることから,参考条項に記載されるのみであった。しかしながら,診療機会が増えているアジアの多くはBCG接種国であり,BCG接種痕の発赤は診断に有用という意見も根強く,第6版では発疹に加えるという形で主要症状に加えられた。
次に不全型川崎病の定義について解説する。もともと第5版では,主要6症状のうち5つ以上を伴うものを川崎病としていた。また,主要6症状のうち4つしか認められなくても,経過中に冠動脈瘤が確認され,他の疾患が除外されていれば川崎病としていた。しかしながら,実臨床では症状がさらに少なく,3つしかない,あるいは症状が4つで冠動脈病変はないものの,他の疾患に該当するものがなく,川崎病として加療すると軽快したという症例はたびたび経験されていた。さらにはこうした症例,すなわち第5版の診断基準を満たさない症例でも冠動脈瘤が確認される症例があり,「川崎病容疑例」「不全型川崎病」あるいは「川崎病疑い」として管理されてきていた。改訂第6版ではこうした症例に対して,症状の数と冠動脈病変の有無から定義づけを行っている(図1)。
重要なことは,主要症状が4つ以下の場合は冠動脈病変が認められる場合でも「他の疾患が否定された場合」なのであって,鑑別なしで川崎病あるいは不全型川崎病とは診断しないようにすることである。また,主要症状が3つあるいは4つで冠動脈病変なしの場合は,他の疾患を否定することのほか,参考条項から川崎病が最も考えられる場合と記載されている。参考条項は第5版では非特異的なものも含めて,いくつかの所見が臨床上留意すべき所見として記載されていたが,第6版では川崎病が疑われる所見と川崎病でみられることがある所見(川崎病を否定しない所見)にわけて記載されるようになった。特に疑われる所見については川崎病診療に携わる医師にとっては周知のものと思われるが,この機会にぜひ確認して頂ければと思う。
第5版までは冠動脈病変についての定義は記載されておらず,絶対値を用いた厚生省基準が用いられてきた。米国では冠動脈内径のZスコアで冠動脈瘤を評価する動きが先行していたが,残念ながら既存の冠動脈内径の標準曲線は作成における統計手法に疑問が呈されており,Zスコアを正しく算出するための冠動脈内径の標準曲線が存在していなかった。2016年にLambda-Mu-Sigma法(LMS法)を用いて日本人小児3851人の冠動脈内径のデータをもとに標準曲線が作成され,ようやく冠動脈内径を正しいZスコアで表現することが可能になった2)。このデータでは性別,身長,体重のデータおよびセグメント1(右冠動脈近位部),セグメント5(左冠動脈主幹部),セグメント6(左前下行枝近位部),セグメント11(左回旋枝近位部)の内径の計測値からそれぞれのZスコアが算出できるようになっている。ただし,実際の計算式は非常に複雑なため,アプリなどを用いるのがよい。現時点では日本においては,絶対値による冠動脈評価からZスコアによる評価に完全に移行しきってはいないため,診断の手引き改訂第6版において冠動脈病変の定義は「内径のZスコア+2.5以上,または実測値で5歳未満3.0mm以上,5歳以上4.0mm以上」と,両方の定義が併記される形になっている。ただし,冠動脈内径と体格などによっては,Zスコア評価と絶対値評価での冠動脈病変の有無が厳密には一致しない場合が存在する。こうした差異は冠動脈病変,特に一過性拡大と小瘤の合併率の統計において影響が出る可能性はあるが,実臨床では絶対値とZスコアの双方の基準を満たさなくても,どちらかの基準で冠動脈病変ありと判定されれば,それをもって判断される機会が多いのでは,と推察する。なお,Zスコアの算出には身長が必要となるが,意外と入院時などに身長の計測が抜け落ちてしまう場合が散見される。冠動脈内径のZスコアは小瘤,中等瘤,巨大瘤といった重症度にも関与し,長期的な管理も重症度ごとに異なるため,正しい管理のためにも計測忘れがないようにしたい。
診断の手引き第6版の参考条項については整理・追加がなされ,川崎病が疑われる所見,川崎病を否定しない所見がまとめられたことは前述したが,そのほかに,特に危急度が高い所見というのがまとめられていて,心筋炎,血圧低下(ショック),麻痺性イレウス,意識障害が記載されている。これらの所見は特に重篤で緊急の対応を要する状態であると同時に,こうした所見を認めた場合,川崎病も鑑別疾患に挙げながら治療をする必要がある。時に川崎病の症状が時間経過とともにそろってきて,ようやく診断に至る場合もあるため,経時的な変化に対する観察は重要と言える。
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