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(17)性同一性障害(GID)【第2章 用語解説】[特集:向精神薬 総まとめ]

No.4709 (2014年07月26日発行) P.92

河野敬明 (東京女子医科大学精神医学教室)

登録日: 2016-09-01

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▶概念と背景

性別には生物学的な性別(sex)と,自分の性別をどのように意識するのかという2つの側面がある。
性同一性障害(gender identity disorders:GID)は,「生物学的性別(sex)と性別に対する自己意識あるいは自己認知(gender identity)が一致しない状態」と定義することができる。ただし,本人が医療の必要性を感じていなければ障害や疾患として扱う必要はなく,一般にトランスジェンダー(transgender)と呼ぶ。診断や治療を求めて医療機関を受診するGID患者数は2000~3000人に1人とも言われる。男性から女性になりたい者をMTF(male to female),女性から男性になりたい者をFTM(female to male)と呼ぶ。

▶診断

米国精神医学会によるDSM-Ⅳ-TRでの診断基準を示す(一部抜粋)。
A:反対の性に対する強く持続的な同一感 反対の性として生きたい,扱われたい,通用するという欲求や確信など
B:自分の性に対する持続的な不快感,その性の役割についての不適切感 性特有の特徴(陰茎や精巣,乳房の膨らみや月経など)に対する嫌悪・忌避
C:身体的半陰陽がない
D:上記により著しい苦痛,または社会的に機能障害が引き起こされている 同時に,他の精神疾患の除外が必要である。
混同されやすいが,性別違和感を伴わない同性愛や服装倒錯(異性装を好む)などの性指向とはまったく別のことであり,それらは治療の対象にはならない。
なお,最近発表されたDSM-5(2013年5月出版)および邦訳版(2014年5月出版)では,診断名が「性別違和」(gender dysphoria)へと変更されている。

▶治療とガイドライン

2012年,日本精神神経学会は「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版)」1)を発表した(インターネットでダウンロード可能)。おおまかな治療の流れは以下のようになっている。
1)精神科領域の治療:精神的サポート,カムアウトの検討,実生活体験,精神的安定の確認
2)身体的治療:ホルモン療法(二次性徴抑制療法など),乳房切除,性別適合手術(sex reassignment surgery:SRS)
上記は精神科,産婦人科,泌尿器科,形成外科など,複数の診療科が協力して行う包括的な診療が必要である。


●文献
1) 日本精神神経学会・性同一性障害に関する委員会:性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン. 第4版. 2012. [https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/gid_guideline/files/journal_114_11_gid_guideline_no4.pdf]

●参考文献
▶ 松本洋輔:医事新報. 2013;4667:50-7.
▶ American Psychiatric Association:Diagnostic and statistical manual of mental disorders. 4th ed. text revision(DSM-IV-TR). American Psychiatric Association, 2000.
▶ 厚生労働省:みんなのメンタルヘルス 性同一性障害. [http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_gender.html]

コラム

日本における性同一性障害の医療の歴史─「ブルーボーイ事件」
1964年,3人の男娼(ブルーボーイ)の求めに応じて睾丸摘出,陰茎切除,造腟など一連の性転換手術を行った産婦人科医が翌年に逮捕され,麻薬取締法と優生保護法違反の責任を問われて69年に有罪とされた。いわゆるブルーボーイ事件であり,当時の優生保護法第28条「故なく,生殖を不能にすることを目的として手術又はレントゲン照射を行つてはならない」に違反したものとされた。
判決では,十分な診察,検査,検討を行わずに,また同意なども得られていないなど手続きが不完全であることから正当な医療行為として容認できないとしている。この判決の妥当性は十分に論議されることなく,「性転換手術は法律違反である」との結論の一部だけが一人歩きすることになった。
この状況を打破するために,97年,日本精神神経学会が「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」(初版ガイドライン)を公表した。このガイドラインでは性同一性障害は医療の対象とされ,性別適合手術(sex reassignment surgery:SRS)は正当な医療行為であると位置づけられた。これに則り,1998年10月16日,埼玉医科大学において日本で初めて公に性同一性障害の治療として性別適合手術が施行された。

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