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(1)わかりやすくする表現法【5章 病院広報・企画表現のスキル】[特集:患者満足度を上げる院内・院外広報]

No.4727 (2014年11月29日発行) P.72

石田章一 (NPO法人日本HIS研究センター)

登録日: 2016-09-01

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  • 1. 直感的理解を意識する

    ものごとを伝えたり理解したりする時,目の前に立ちはだかるのは「わかりやすさ」という問題です。外国に行って知らない人に道を尋ねても,その国の人が話す言葉が理解できなければ,いくらわかりやすい説明を受けたとしても答えはわからないわけです。こんな時,国や文化を超えたシンプルなビジュアルのガイドがあれば,直感的でわかりやすく旅に役立つことでしょう。
    たとえば紙面上に描いた「直線Aと曲線B」では,どちらがシンプルでしょうか。「紙面に描かれた線AとBはどちらが眼にとって優しいか」という問いです。「鋭い直線より柔らかい曲線が優しいだろう」と思うのは,情緒的で主観的な答えです。曲線の状態にかかわらず,また,それぞれが何を表しているかなどを問わなければ,明らかに線Aがシンプルです。“Simple is best”などと言います。
    さて,「なぜAがBよりもわかりやすいか」ですが,人間の視覚神経の伝達速度をかなり遅くして比較した場合,脳が記憶している直線(メンタルモデル)と,光学的に今見ている直線Aの合致は,曲線Bの判断よりもかなり早いからです。曲線Bは合致しない部分が多く,判断に時間やエネルギーを使ってしまう。したがってAのほうがシンプルである,というわけです。また,シンプルな図形は(直感的に)素早く理解できるのです。

    1 フォントについて

    こうした原理は,印刷の書体(フォント)についても活用可能です。ゴシック系のフォントと明朝系フォントを単純に比較してこの原則を当てはめれば,どちらが眼に歓迎されるでしょうか。文字を視認してから判断するまでの時間を計測すると,その文字の視認スピードにより,早く知らせる場合に優れたフォントを選ぶことができます。また,画数の多い文字と少ない文字では,当然のことながら少ない文字のほうが理解しやすく,眼の負担は少ないわけです。漢字と仮名なら,仮名のほうが眼に負担は少ないのです。さあ,そのような科学的態度によって,少しでも来院者の目に優しい情報,ストレスにつながらないデザインをどうするか,これも病院では,広報担当者がやらないと誰がするのかということになります。
    シンプルとは,様々に連想できるとか複雑な要素の表現ではなく,誰が見ても同様に知覚可能な図形や形状,色彩構成などです。このためには,いかに無駄な説明を省くかがポイントになります(図1)。たとえば「日の丸」は色も形も単純そのもので,いったんわかったらいつまでもその記号性は記憶されます。遠くからでも視認性が優れているため,偽物すらできません。院内の表示サインや誘導表示,それに広報誌のページ編集には,ぜひこうした原則をうまく活用したいものです。余計な要素を極限まで除去してシンプルな情報づくりを進めましょう。
    また,見た目のシンプルさは文案の単純化にも役立ちます。長々と書いた文章が,気がついたらまったく役に立たない。ないほうがよほどわかりやすく美しいなどということも多々あるものです。常にムダな表現要素がないか,見る目を養うことが,次の仕事や周りのパートナーへの刺激となって,よいコミュニケーションや環境を育てるのです。わかりやすさは,コミュニケーションの原点とも言えます。

    2 レイアウトについて

    次は,秩序あるレイアウトや色彩の使い方です。画面の中に雑多な要素が交じり合うのではなく,いくつかの要素が秩序正しく配置されているとか,ある種のカラー・トーンで構成され,主題が明確なデザインは,必然的にわかりやすい構成になっていると言えます。制作過程で様々なアイデアもあったでしょうが,そうした贅沢を削ぎ落として,本来の目的だけを追求した構成には,品位があっていつまでも愛用される傾向にあると思います。デザインを本格的に学ばなかった人は,つい多くの要素を盛り込みがちになりますから,全体の構成上,どうしても不可欠な要素だけに絞っていけば,必然的に格調の高い表現に行き着くことと思います。こちらも絞り込み,単純化がテーマになります。
    そんな中,街中(人が集まるところ)に,ユニバーサルデザインが堂々と幅を利かせていてイライラするのですが,あれはただの施策のためであって,少なくともデザインとは言いがたいところがあります。元来,ユニバーサルなどの言葉がなくてもデザインという語の中にユニバーサルは含まれるものなのです。盲人タイルや点字案内版などにおいても,本当の豊かさの追求が感じられないし,場合によっては,わざわざ差別感を表したようなデザインになっている場合もあったりします。本当のデザインがわかる人が関わっていないことに愕然としてしまいますが,反対にデザインに関わる者が,こうしたことにより踏み込んだ働きをおろそかにしている点も大きいと思います。

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