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(6)ケーススタディ[特集:眠れない患者に対応する]

No.4731 (2014年12月27日発行) P.72

野村敦彦 (愛知医科大学睡眠科講師)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-14

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  • CASE① 寝付きが悪くなかなか眠れない

    症例:56歳,女性。
    主訴:不眠。
    経過と状況:7年前より不眠症状あり。5年前より他院にてゾルピデム5mgまたは10mg1錠(眠前)を処方されていた。しかし,服用しても不眠症状が続いていた。2年前に,頸部,肩の痛み,動悸があった。内科,整形外科で心電図,X線検査,血液検査などを施行したものの異常は認めなかった。その後,本年紹介にて愛知医科大学病院の睡眠科(以下,当睡眠科と略)を受診した。消灯して寝ようとすると,逆に緊張してドキドキしてくるなどの入眠困難があり,床で1時間程度,本を読むことが多かった。中途覚醒も1~3回/夜あり。午前5時頃に覚醒し,午前6時に起床。
    エプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale:ESS)0/24点,ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)15/21点。入院にて終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査を施行したところ,総睡眠時間(total sleep time:TST)412.5分,睡眠効率(sleep efficiency:SE)88.5%,睡眠潜時(sleep latency:SL)24分,無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)0.7回/時,睡眠時周期性四肢運動(periodic limb movement during sleep:PLMS)0回/時(ESS,PSQIは100ページの表,101ページの表を参照)であった。
    診断と治療:以上より,精神生理性不眠症と診断1)。不眠症向けの認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I)の適応あり2)3)と判定し,試験的に施行した。
    解説:不安や考えごとは不眠症を維持させることがあり,寝るための努力がかえって眠りを妨げている場合もある。不眠症に対するCBT-Iはこのような訴えに注目し,不眠の維持と関連している生活習慣や不安・緊張,考え方を見直すことで不眠症を改善する治療法である。日常生活の行動パターンの把握にはアクチグラフが有効である(アクチグラフは98ページの図を参照)。本例は,1月1回の間隔でCBT-Iの6セッションを完了した。
    CBT-I終了時は,ゾルピデムを服用し,入眠困難は消失,中途覚醒はあるものの再入眠可能となった。その後,段階的にゾルピデムを漸減し中止したが,入眠困難もなく,中途覚醒も減少した。CBT-I終了後も睡眠薬服用せず,不眠症状は認めていない。


    ●文献
    1) American Academy of Sleep Medicine:The International Classification of Sleep Disorders:diagnostic and coding manual. 2nd ed. American Academy of Sleep Medicine. 2005, p6-8.
    2) Morgenthaler TM, et al:Sleep. 2006;29(11):1415-9, 2006.
    3) Sivertsen B, et al:JAMA. 2006;295(24):2851-8.

    CASE② 熟睡感がなく頭がぼんやりして血圧も高い

    症例53歳,男性。
    主訴いびき,日中の過度の眠気。
    経過と状況3年前より糖尿病,高血圧症にて近医にて通院治療されていた。20歳の体重より10kg程度増加傾向にあり,「最近,いびきの頻度も増えてきた」と妻より指摘されている。また,朝起床時に熟睡感がなくぼんやりしてしまうことが多く,車の運転中に居眠りしてしまうこともあった。
    身長168cm,体重80kg,BMI 28.3,血圧142/96mmHg,心拍数88回/分・整,中咽頭所見にて軟口蓋低位を認めた。ESS 15/24点。
    診断と治療入院にてPSG検査を施行した結果から,AHI 74.7回/時,経皮的動脈血酸素飽和度(percutaneous arterial oxygen saturation by pulse oximetry:SpO2)SpO2mini 69%,SpO2 mean 93%より,重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)と診断した。
    睡眠段階ではstageN1が80.4%と多く,stageN3は認めなかった。頻回の覚醒反応により浅睡眠の割合が高くなっていた。持続的気道陽圧(continuous positive airway pressure:CPAP)治療を開始した。その後,外来通院しているが,CPAPのコンプライアンスは良好であり,現在もCPAP治療を継続している。
    解説OSASは,肥満に関連したmultiple risk factorを合併しやすく,高血圧症の病態に関連する。また,「高血圧の予防,発見,診断,治療に関する米国合同委員会 第7次報告」(the Seventh Report of the Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation and Treatment of High Blood Pressure:JNC 7)では,高血圧の原因が明らかな疾患のうち,OSASが列記され,OSASを積極的に検査し治療する重要性が指摘された。わが国でも,日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2014』1)にOSASについて記載されている(2009年版以降)。OSASでの高血圧を発症する機序として,交感神経の亢進やインスリン抵抗性,胸腔内圧の変動などが考えられる。本例は高血圧症治療中であり,さらに重症OSASを認めたため,CPAPによるOSASの治療は高血圧治療にも必要であると思われた。


    ●文献
    1) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会, , 編:高血圧治療ガイドライン2014. ライフサイエンス出版. 2014, p83-4.

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