「風邪を引いた」とよく耳にします。風邪とは,鼻汁や咽頭痛,咳嗽など上気道の炎症症状を主体とするウイルス疾患の総称です。正式には「感冒」や「上気道炎」,さらには「風邪症候群」と呼ばれています。近年,ウイルス学の進歩により,原因となるウイルスが同定できるようになり,それぞれのウイルスによる症状や疫学的特徴などが明らかにされるようになってきました。このような知見が明らかになってくると,個々のウイルスの流行期において,より的確な対策が可能になります。
今回は主に乳幼児にみられる風邪の原因であり,秋から冬にかけて流行するrespiratory syncytial virus(RSV)に関して,小児科のみならず,それ以外の専門科の先生方からの質問や疑問にお答えしていきたいと思います。
A1 秋から冬にかけて流行する風邪の原因ウイルスは多く知られていますが,中でも乳幼児が最も多く感染するのがrespiratory syncytial virus(RSV)です。ほとんどの乳幼児が2歳までに感染すると言われています。そして,RSVは生涯にわたって繰り返し感染することも知られています。
1956年にMorrisら1)が,咳や鼻水など上気道症状を呈した20匹の正常チンパンジーから原因病原体を分離同定し,chimpanzee coryza agentと名づけて報告しました。ここではすでにヒトの呼吸感染との関連も示唆されていますが,その後,1957年にChanockら2)によって乳幼児のクループ症候群患者12例の咽頭ぬぐいの検体のうち2例から,新しいタイプの細胞変性をきたすmyxovirusとして検出,報告されたのがヒトでのRSV感染の最初の報告です。
このウイルスの特徴は,感染に際し周囲の細胞の細胞膜を融合させ,多核巨細胞のような構造を形成する点です。これが合胞体(syncytia)で,これを形成するためrespiratory syncytial virus(RSV)と命名されています。Chanockらはmyxovirusと報告していますが,正確にはparamyxovirusでenvelopを持つ一本鎖(-)RNA virusです。血球凝集やneuraminidase活性を示さないことからpneumovirusに分類されています。血清型でA型とB型の2つにグループわけされ,遺伝子型による分類ではさらにA型が10,そしてB型は20に分類されています3)。
これらの血清型による臨床像の違いは明らかではありませんが,それらが独立して流行を繰り返し,世界規模で巡回しています。同じシーズンでA型とB型のそれぞれに罹患してしまうことも知られています。
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