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日本における百日咳の増加[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(35)]

No.5275 (2025年05月31日発行) P.69

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2025-06-03

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●百日咳とは1)

百日咳はグラム陰性桿菌の百日咳菌(Bordetella pertussis)を原因菌とし,痙攣性の発作(痙咳発作)を特徴とする急性気道感染症です。潜伏期間は約7~10日間です。典型的な経過は風邪症状で始まり,カタル期(咳が激しくなる)→痙咳期(特徴的な咳や呼吸音がみられる)→回復期へと至ります。乳児(特に新生児や乳児早期)では痙咳期に肺炎や脳症などを合併し,稀に死亡することがあります。成人では咳が長期にわたって持続しますが,典型的な発作性咳嗽の報告は少ないです。

●日本における百日咳の増加1)

2018年1月1日に感染症法上の5類感染症小児科定点把握対象疾患から5類全数把握対象疾患となりました。年間届出数は,2018年1万2117例,2019年1万6850例でしたが,2020年2794例,2021年704例,2022年494例と,2019年までと比較して大きく減少しました。この傾向は,他の呼吸器感染症同様,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行への感染対策の強化の影響と考えられました。対策の緩和とともに,2023年の報告は1000例と,2022年と比較すると約2倍に増加していたものの,依然低い水準(2019年と比較し約94%減少)で推移していました。

しかし,2024年,2025年と増加傾向がみられ,2025年は診断週第12週時点で4200例が報告され,全数把握対象疾患になった2018年以降の同時期(第12週)としては過去最多となり,2024年の年間届出数4054例を超えました。年齢群では10~19歳が最も多く,ついで5~9歳が多い状況です。

●マクロライド耐性百日咳菌にも注意!1)2)

感染者数の増加以外の問題として,第一選択薬であるマクロライド系抗菌薬の耐性例の増加があります。近年,海外(中国など)ではマクロライド耐性百日咳菌の出現と拡大が問題となっていました。日本では2018年に大阪府と東京都で1株ずつ分離されていましたが,しばらくは耐性例の報告がありませんでした。しかし,2024年に感染者数が増加しはじめると耐性例も報告されるようになりました。なお,マクロライド耐性例にはST合剤が推奨されます。

●対策はワクチン接種!1)3)

対策にはワクチン接種がきわめて重要です。百日咳に有効なワクチンは3種混合・4種混合・5種混合ワクチンの中に含まれ,これらの定期接種導入により百日咳の患者数は減少しました。しかし,現行の定期接種は生後2カ月から開始され,1歳を迎える前に3回と,1歳を超えて追加接種1回の計4回接種で,それ以降の追加接種は設定されていません。そのため,抗体が減少してくる幼児期から学童期ではそれまで4回のワクチン接種を受けているにもかかわらず,感染者の報告があります。「日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール」では,任意接種となりますが,就学前に3種混合ワクチンを,また現在11~12歳の定期接種となっている2種混合ワクチンの代わりに3種混合ワクチンの接種を推奨しています。

【文献】

1)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:百日咳の発生状況について.(2025年4月30日アクセス)

2)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:東京都の小児病院におけるマクロライド耐性百日咳菌感染症例の検出.(2025年4月30日アクセス)

3)日本小児科学会:【医療関係者用】日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール 2024年10月27日版.(2025年4月30日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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