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拡張期心不全(HFpEF)の臨床的ジレンマ

No.4746 (2015年04月11日発行) P.46

川上利香 (奈良県立医科大学第1内科講師)

斎藤能彦 (奈良県立医科大学第1内科教授)

登録日: 2015-04-11

最終更新日: 2016-10-26

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左室駆出率が保持されているにもかかわらず心不全を発症する病態である拡張期心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)は,現在,高齢化社会の進行による患者数の増加に伴い世界的な健康問題となっているが,いまだその病態と治療法は確立されていない。
HFpEFは心不全の約30~40%を占める。特に女性や高齢者に多く認め,その予後は,左室駆出率の低下した心不全とほぼ同程度に不良である。糖尿病,COPD,高血圧,肥満・過体重,貧血などの併存疾患との関連が示唆されている。最近,HFpEFの病態として,これら併存疾患による全身の炎症促進状態が,冠動脈の微小血管内皮細胞での活性酸素産生を促進し,一酸化窒素(NO)の作用低下を介した,巨大な細胞骨格蛋白質であるタイチンのリン酸化減少が拡張障害をもたらすことが疑われている(文献1)。
治療の介入としては,その病態にレニン・アンジオテンシン系の関与が大きいことを考えると,抗アルドステロン拮抗薬スピロノラクトンの効果が期待されたが,長期予後に対しては有意な差はなく,心不全入院のみ改善した。また,NOのセカンドメッセンジャーであるcGMP分解を阻害するPDE5阻害薬シルデナフィルもHFpEFの予後改善にはつながらなかった。新たな心不全治療薬であるLCZ696(バルサルタンとナトリウム利尿ペプチドの分解に関与するネプリライシン阻害薬の合剤)については,現在,臨床試験が進行中である。

【文献】


1) Paulus WJ, et al:J Am Coll Cardiol. 2013;62 (4):263-71.

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