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双極性障害と双極うつ病

No.4707 (2014年07月12日発行) P.55

大森哲郎 (徳島大学精神科神経科教授)

登録日: 2014-07-12

最終更新日: 2016-10-26

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双極性障害(bipolar disorder)は躁病相とうつ病相がエピソード性に出現する病気のことで,病名としては躁うつ病のほうが通りがよいが,両者は同義ではない。躁うつ病の概念にはうつ病相のみのタイプも含まれていたが,1960年代以降の諸研究から,うつ病相のみの単極性と,躁病にもなる双極性では,経過,家族歴,予後,治療反応が異なることが示され,双極性障害が分離された。1980年の米国の公式分類にこの病名が登場してから既に30数年が経過しているが,そのわりには一般医家に十分浸透しているとは言いがたい病名である。
一般医家にもぜひ知っておいてもらいたいのは,双極性障害のうつ病,すなわち双極うつ病の治療方針である。最近20年ほどの研究から,単極性のうつ病とは薬物治療反応が決定的に異なることがわかっている。単極性ならば抗うつ薬が第一選択薬であるが,双極うつ病は気分安定薬か非定型抗精神病薬が第一選択となる。双極うつ病に抗うつ薬をいきなり処方するのは無効というだけならまだしも,しばしば躁転をきたして病相を不安定化させ,部分的に抗うつ効果が生じて焦燥感や不快感をもたらす。自殺企図の誘発につながることもある。もし抗うつ薬を使用するとしても,気分安定薬か非定型抗精神病薬と併用しなければならない。
実は単極と双極の2分割が本当に妥当かどうか,議論が続いている。両者には移行,重なり,中間形があるのは文献の教えるところでもあり,精神科医の経験するところでもある。区別はそう簡単ではない。現実的対応としては,うつ状態であっても経過に躁状態を認めれば,双極うつ病を疑って専門医へ紹介するのが無難であろう。

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