株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

生活領域が限られている介護老人保健施設入所者の意思決定を行うための認知能力の判定に困っています…【スタッフと連携し,衣服・食事・テレビのチャンネルの選択などの細かな意思決定を見逃さない】

No.4792 (2016年02月27日発行) P.60

玉井 顯 (医療法人敦賀温泉病院 認知症疾患医療センター 理事長・院長/介護老人保健施設ゆなみ理事長)

登録日: 2016-02-27

最終更新日: 2016-10-25

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

介護老人保健施設入所者の主治医意見書で日常の意思決定を行うための認知能力を判定する具体的事項を。
主治医意見書の中の,「3.心身の状態に関する意見」の「(2)認知症の中核症状」の項に「日常の意思決定を行うための認知能力」の欄があり,主治医意見書作成者はこの欄にある,「自立」,「いくらか困難」,「見守りが必要」,および「判断できない」のどれかにチェックしなければなりません。何を基準(根拠)にして,この「いくらか困難」や「見守りが必要」などにチェックすべきなのかを教えて下さい。なお,主治医意見書にある「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」や「認知症高齢者の日常生活自立度」とは異なります。
自宅におられて病院の外来に通院している方(要介護者)では,診察時に付き添ってこられるご家族に様子を聞くことができます。たとえば,「家計の管理はできていて,行き慣れたマーケットには買い物に行けるが,初めての場所には自分ひとりで買い物に行けない場合」→「いくらか困難」,「家計の管理ができていなかったり,買い物をひとりでできなかった場合」→「見守りが必要」,「毎日することを自分で判断し,予定を立てて生活ができている場合」→「自立」,「ほとんど,あるいはまったく自分で判断できない場合」→「判断できない」と判定可能です。
しかし,介護老人保健施設入所者は,施設という限られた居住空間で生活しているため,電話番をするわけでもなく,服薬管理をすることもなく(施設では看護師が行います),また切符を買って交通機関を利用して買い物に行きレジでお金を支払ったりすることもありません。
上記の「日常の意思決定を行うための認知能力」を判定する具体的事項があれば,主治医意見書作成者は,「自立」,「いくらか困難」,「見守りが必要」,「判断できない」のどれに属するかを判定しやすくなります。たとえば,「排泄の処置ができる」とか「入浴時の着替えの準備ができる」とか,介護老人保健施設での日常生活動作で判定できる項目はないものでしょうか。 (東京都 K)

【A】

意思決定を行うための認知能力の判定は,ご指摘のように,大変難しい問題です。確かに,外来で通院中の方であれば,日常における行動上での意思決定,たとえば買い物であれば好きなものを自分の意思で買う,旅行に行くとしたら自分の意思で行きたい場所を決める,などというような意思決定場面に遭遇することが多いので,家族にどの程度本人の意思で物事を決定しているのかを聞けば判定は可能でしょう。しかし,介護老人保健施設に入所されている方の場合,ルールに従ってプログラムが遂行されることが多いので,本人の意思決定力を確認することは困難です。
老人保健施設において,主治医がその場で診察をして意思決定ができるかどうかを判断することは困難です。家族の代わりに,スタッフが利用者の意思決定力があるかどうかを常に評価しなくてはなりません。たとえば,レクリエーションや入浴,食事,あるいは外泊のときに,何らかのかたちで意思決定確認ができるかもしれません。
意思決定を行うための認知能力の判定には,多面的な要素があるため,多職種で日頃からの観察が必要です。その際の具体的な項目は,リハビリでの参加を含めた種々の選択(衣類,食事,入浴,外出・外泊,テレビのチャンネルなど)が挙げられます。判定の際には,スタッフの意見も十分に聞き取ることが重要です。そして,意思決定に影響を及ぼす因子,記憶障害や見当識の程度,理解障害,遂行機能障害の程度なども知っておく必要があり,幻覚,妄想や気分障害の有無を確認するようにしなくてはなりません。
意思決定を行うための認知能力には多面的な要素があり,種々の認知機能や精神症状を勘案しなければならない項目であるため,主治医の意見書の中でも一番難しい項目であると思います。現在,「自立支援」が謳われている中,施設側の都合で本人の意思決定をないがしろにしているように思えます。なるべく,様々な場面で本人の意思が聞けるような施設にしたいものです。意思決定を行うための認知能力は決して診察場面のみからでは判定できません。多職種の意見も十分に参考にして医師の意見書を完成させることが必要でしょう。まさに多職種連携が鍵を握りますね。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top