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食事に含まれる砒素と肺癌に関係があると聞いたのですが…【喫煙との相乗効果でリスク上昇の可能性】

No.4775 (2015年10月31日発行) P.65

澤田典絵 (国立がん研究センター がん予防・検診研究センター疫学研究部室長)

登録日: 2015-10-31

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

食事からの砒素摂取と肺癌の関連について教えて下さい。 (宮崎県 A)

【A】

国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer:IARC)は,砒素で汚染された井戸水を飲用している海外の地域住民や,職業的に砒素に高濃度曝露されている労働者のデータに基づき,砒素および無機砒素化合物をヒトに対して発がん性のある因子(グループ1)と分類しています。
わが国では,水道法により水道水中の砒素濃度に対して厳格な規制が行われていますが,日本人は,砒素含有量が多い魚介類や海藻を比較的多く摂取しています。魚介類や海藻に含まれている砒素は,一般的にはほとんどが無害であると考えられている有機砒素ですが,その中でも体内でメチル化されて毒性のある物質に代謝されるものがあることが報告されています。また,日本人がよく摂取するひじきなど,ある程度の無機砒素が含まれているものもあります。
2004年に,英国食品規格庁(Food Standards A--gen-cy:FSA)は海藻の無機砒素含有量の調査結果をもとに,ひじき摂取に関する注意喚起情報を示しています。これに対し厚生労働省では,国民栄養調査による海藻摂取量と,海藻類の国内生産量,輸入量および輸出量のうち,ひじきの占める割合からひじき摂取量を推定し,「毎日4.7g(1週間当たり33g)以上を継続的に摂取しない限り,PTWI(WHOが定めた砒素の暫定的耐容週間摂取量)を超えることはない」とした上で,「ヒジキを極端に多く摂取するのではなく,バランスのよい食生活を心がければ健康上のリスクが高まることはないと思われます」というQ&Aを発表しています(文献1)。
疫学研究では,国立がん研究センターで1990年から行われている多目的コホート研究において,9府県11保健所管内に在住の45~74歳の男女約9万人を対象とした約11年間の追跡で,食事からの砒素摂取とその後がんになるリスクについて検討が行われました。その結果,非喫煙者では,砒素摂取とがんとの関連はみられませんでしたが,喫煙者において,無機砒素摂取量が多いほど肺癌のリスクが高くなりました(最低4分位に対する最高4分位の相対危険度=1.28)(文献2)。過去の研究でも高レベルの砒素曝露と肺癌との関連は喫煙男性におけるリスクの上昇が顕著に認められ,喫煙と砒素摂取の相乗効果が報告されています。
この疫学研究からは,日本人の日常の食事から摂取するレベルの砒素においても影響がある可能性が示唆されますが,その結果は,食事からの砒素摂取と肺癌との関連について初めて報告された1つのエビデンスにすぎません。砒素の多い食品の摂取制限など,個人や社会としてのリスク管理の根拠としては,別の集団による検証などの研究による複数のエビデンスの蓄積を経た総合的なリスク評価が必要です。
また,肺癌は,喫煙との関連が強いことがわかっています。前述のように喫煙と砒素摂取の相乗効果が報告されていることからも,肺癌を予防するためには,まずは禁煙をすることが重要です。

【文献】


1) 厚生労働省:ヒジキ中のヒ素に関するQ&A.
[http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/07/tp0730-1.html]
2) Sawada N, et al:Cancer Causes Control. 2013;24(7):1403-15.

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