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ST上昇型より非ST上昇型心筋梗塞のほうが予後が悪い理由は?

No.4773 (2015年10月17日発行) P.61

木村一雄 (横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター教授)

登録日: 2015-10-17

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

ST上昇型心筋梗塞よりも非ST上昇型心筋梗塞のほうが予後が悪いようですが,その理由を教えて下さい。 (東京都 F)

【A】

心筋梗塞症の予後に最も関連する因子は,心機能低下をもたらす梗塞サイズです。心筋梗塞で冠動脈プラークが破綻し,冠動脈内に血栓が形成され,完全閉塞により血流が途絶えると,心電図上STは上昇します。一方,高度狭窄により血流がわずかに流れる状況では,STは下降します。このため,梗塞サイズはST上昇型心筋梗塞で大きいことが一般的です(文献1,2)。
しかし,従来の定義に基づく,クレアチンホスホキナーゼ(CPK)の2倍以上の上昇で診断される非ST上昇型心筋梗塞は,高血圧,脂質異常症,腎機能障害,糖尿病の合併,狭心症・心筋梗塞や冠血行再建の既往が多く,ST上昇型心筋梗塞と比べ多枝病変が高率にみられ,再梗塞の頻度も高く,予後が悪くなる病態が存在します(文献1,2)。また,特に広範なST下降にaⅤR誘導のST上昇を認める例では,重症冠動脈病変で緊急冠血行再建を必要とする例が多いことが注目されています(文献3)。
ただし,最近はCPKよりも,心筋壊死のより鋭敏な指標である心筋トロポニンが正常値の上限を超えた場合に急性心筋梗塞と診断するため(universal definition)(文献4) ,冠動脈病変が軽度な例も非ST上昇型心筋梗塞に含まれるようになりました。このため,非ST上昇型心筋梗塞の病像スペクトルは幅広く,個々の症例ごとに病態をふまえて診断・治療を行うことが重要になります。

【文献】


1) Daida H, et al:Circ J. 2013;77(4):934-43.
2) Ishihara M, et al:Circ J. 2015;79(6):1255-62.
3) Kosuge M, et al:Am J Cardiol. 2011;107(4):495-500.
4) Thygesen K, et al:Circulation. 2012;126(16):2020-35.

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