株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

扁桃腺炎のみのアデノウイルス感染児に対する出席停止指導

No.4771 (2015年10月03日発行) P.64

木下典子 (国立成育医療研究センター 生体防御系内科部感染症科)

宮入 烈 (国立成育医療研究センター 生体防御系内科部感染症科医長)

登録日: 2015-10-03

最終更新日: 2016-12-13

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

最近,扁桃腺炎のみで結膜充血を認めず,厳密には咽頭結膜熱(プール熱)とは言いきれないようなアデノウイルス感染症の児に対しても,解熱後2日間の出席停止を指示している保育園,幼稚園を多くみます。上記のような指導は絶対とされているのでしょうか。 (東京都 S)

【A】

アデノウイルス感染症の児に対して,学校保健安全法施行規則や厚生労働省のガイドラインで出席停止期間が定められているのは,咽頭結膜熱および流行性角結膜炎と診断された場合であり,扁桃腺炎のみの場合は出席停止の指導は絶対ではありません。ただし,現場における指導は自治体や保育園ごとの裁量となります。

アデノウイルスは,エンベロープを有さないDNAウイルスであり,ほとんどの環境下でも安定的で,多くの消毒薬により失活しない特徴があります。57種類の血清型が知られており,多彩な臨床症状を引き起こします。主に呼吸器疾患(咽頭炎,扁桃腺炎,肺炎),眼疾患(咽頭結膜熱,流行性角結膜炎),消化器疾患(胃腸炎),泌尿器疾患(出血性膀胱炎)などがあり,ほかにも脳炎,心筋炎などがあります。

その中で,咽頭結膜熱は発熱,咽頭発赤,結膜充血を主とする急性感染症です。汚染した水からの結膜への直接侵入があると言われており,塩素濃度が不十分なプールでの感染もみられることから,日本ではプール熱と呼ばれています。

アデノウイルスの感染力は強く,咽頭結膜熱は感染症法で表1のように届出基準が示され,学校保健安全法施行規則および「2012年改訂版保育所における感染症対策ガイドライン」(厚生労働省)の中で,主要症状が消退した後2日を経過するまでを出席停止期間として定めています。

よって,ご指摘の通り,定義からすると,医師が咽頭結膜熱と診断していない扁桃腺炎のみの場合は出席停止指導の対象にはなりません。

しかし,アデノウイルスによる急性咽頭炎と咽頭結膜熱は,多くが同じウイルスの型(咽頭炎と咽頭結膜熱に共通する型:1,2,3,6,7,7a,14)による感染症で,診断時には咽頭所見だけでも,その後に眼症状が出現してくることがあるため,注意が必要です。また,急性咽頭炎,扁桃腺炎のみの場合も乳幼児での流行の頻度は高く,症状が消失するまで自宅で安静にすることが勧められます。軽症であっても咽頭から2週間,糞便から数週間,ウイルスが排泄されると言われているために,手洗いや適切な消毒を行うよう指導する必要があります。

【参考】

▼ Cherry J, et al:Feigin and Cherry’s Textbook of Pediatric Infectious Diseases. 7th ed. Saunders, 2013.
▼ 厚生労働省:2012年改訂版 保育所における感染症対策ガイドライン. [http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku02.pdf]
▼ 学校保健安全法施行規則(昭和33年文部省令第18号)
▼ 谷口清州:IDWR. 2003;5(14):9-11.
[http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2003-13.pdf]

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top