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小腸・大腸の逆蠕動例

No.4747 (2015年04月18日発行) P.65

當瀬規嗣 (札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授)

登録日: 2015-04-18

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

嘔吐しているとき,胃が逆蠕動を起こしていると思われますが,小腸や大腸でも逆蠕動することはあるのでしょうか。あるとすれば,どのような事態・現象なのでしょうか。ご教示下さい。 (北海道 S)

【A】

蠕動は,消化管において起こる内容物の輸送運動です。食道から直腸まで,すべての消化管で観察されます。内容物を口腔から肛門の方向へ輸送することを原則とし,これを「腸の法則」と呼びます。一方,蠕動と逆方向,すなわち,肛門から口腔の方向に輸送運動がみられ,これを逆蠕動と呼んでいます。
蠕動が生じるメカニズムは解明されています。ただし逆蠕動は,蠕動と併存することが確認されていますが,決して蠕動の裏返しのしくみではなく,詳しいメカニズムは不明です。
嘔吐は胃内容物を口腔へ逆流させる運動なので,逆蠕動が関与しているということは容易に想像がつきますが,単に胃の逆蠕動による現象ではないと言えます。嘔吐の始まりは,十二指腸で生じる逆蠕動により,内容物が胃に逆流することから始まります。その後,不随意的な腹圧の上昇が起こり,胃の内容物がそれにより口腔へ押し出されて嘔吐となるのです。
この際,胃の逆蠕動が関与しているという考えと,逆蠕動は不必要とする考えがあり,嘔吐における胃の逆蠕動が起こっていても,その関与は補助的なものにとどまると思われます。つまり,嘔吐における逆蠕動の関与は,十二指腸において認められることになります。
嘔吐は,生体防御反応であり,病的な反応ですが,正常の消化管運動において逆蠕動が生じていることは,2箇所で指摘されています。1つは回腸であり,回盲部を起点として空腸の方向に逆蠕動が常に起こっています。これは内容物が回盲弁を越えて盲腸へ移動することを阻止するように働き,その結果として内容物が回腸内に長くとどまり,栄養の吸収を促進していると考えられます。消化吸収が進み,回腸内に内容物がとどまって内圧が上がると,回盲弁が開き,蠕動が逆蠕動を凌駕して,内容物は盲腸内へ送られます。
もう1つの逆蠕動は上行結腸においてみられます。これも,内容物を上行結腸内にとどめて,水分や電解質の吸収を促進するので便の固形化を進める,つまり水分の便への喪失を防ぐ役割があると考えられます。
おそらく,特殊な,病的な状況では,これ以外の消化管の部位においても逆蠕動を引き起こす可能性があります。たとえば,高度のイレウスの際にみられる吐糞症は,閉塞部を起点として,全面的な逆蠕動が引き起こされた結果であると言えます。
逆蠕動のしくみはすべての消化管に,顕在性に,あるいは潜在性に備わっているのです。

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