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(1) 脳腸ペプチドの立場から[特集:ストレス関連疾患のメカニズム―最近の知見から]

No.4895 (2018年02月17日発行) P.24

河村菜実子 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻社会・行動医学講座心身内科学分野)

勝浦五郎 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻社会・行動医学講座心身内科学分野特任講師)

乾 明夫 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻社会・行動医学講座心身内科学分野教授)

登録日: 2018-02-16

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  • ストレスによって引き起こされる気分障害および不安障害に,グレリンが重要な役割を果たしていると考えられている

    ストレスによる交感神経の活性化は,胃からのグレリン分泌を増加させる

    グレリンは,青斑核(LC)およびEdinger-Westphal核(EW)に作用して,視床下部室傍核(PVN)のcorticotropin-releasing factor(CRF)ニューロンの活性化を引き起こし,血中glucocorticoidの増加を引き起こす

    グレリンは,直接的および間接的に視床下部─下垂体─副腎系に作用し,ストレス反応を調節すると考えられる

    1. ストレスと精神疾患

    心理的なストレスは,パニック障害,強迫性障害,外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder:PTSD)などの不安障害や,うつ病のような気分障害を引き起こす。ストレスの反応は主に視床下部─下垂体─副腎系〔hypothalamic-pituitary-adrenal(HPA)axis〕によって調節されている1)。HPA axisの活性化は,視床下部のcorticotropin-releasing factor(CRF)ニューロンの活性化によって引き起こされる。CRFは下垂体前葉からのadrenocorticotropic hormone(ACTH)の放出を刺激し,ACTHは副腎皮質からのglucocorticoidの放出を刺激する。glucocorticoidは,ストレスへの適応を手助けする様々な機能を担っており,HPA axisの機能不全は,不安障害や気分障害の原因となると考えられている2)

    視床下部のCRFニューロンの活性は,扁桃体と海馬によって制御されており,扁桃体と海馬はHPA axisとストレス反応を互いに相反的に制御している。不安障害には,扁桃体の機能亢進と海馬の機能低下の両方が関与する。扁桃体は,恐怖反応に重要な役割を果たしており,恐怖は,一般に,ストレス因子によって引き起こされ,ストレス反応として現れる。恐怖とは,身に危険が迫ってくる状態に対する適応反応であるが,すべての状況において適切な,あるいは適応的な反応を起こすのではなく,不適切な恐怖の発現こそが不安障害を特徴づけるものである。ストレスが長期間続くことによる継続的な海馬へのglucocorticoidの曝露は,海馬の機能低下および神経変性を引き起こす原因となり,このような海馬の変性によってストレス反応がより増幅され,さらに大量のglucocorticoidが放出され,これがさらに海馬の機能障害へとつながる悪循環を引き起こす。PTSD患者では,海馬の容積が減少していることが明らかにされている。

    気分障害の発生には,幼少初期の虐待や無視,成人になってからの生活のストレスが重要な危険因子であることが立証されている。うつ病患者の約60~80%でHPA axis活性の異常が認められる3)。メランコリー型うつ病ではHPA axisは活性化しており,非定型うつ病ではHPA axis活性が低下している4)

    2. グレリン

    1 グレリンとその受容体

    グレリンは,胃の内分泌細胞から分泌される成長ホルモン分泌促進因子受容体の内因性のリガンドとして1999年に同定された,28個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである5)

    血中のグレリンは,デスアシル化およびアシル化された2種類の形で存在しており,グレリンのアシル化は,ghrelin-o-acyltransferaseの活性化を介して,3番目のセリンがオクタノイル化されて起こり,通常,血中のデスアシルグレリンレベルのほうがアシルグレリンよりも高濃度である6)。アシルグレリンの受容体はgrowth hormone secretagogue receptor type 1a(ghrelin receptor)(GHSR)であるが,デスアシルグレリンの受容体はまだ同定されておらず5),デスアシルグレリンはGHSRを活性化しない5)7)

    胃で産生されたグレリンは,血液脳関門を通り抜けて脳内に輸送され,中枢神経系の機能を調節している8)。また,グレリンは胃だけでなく腸および脳に広く分布し,さらに,膵臓や肝臓にも発現しており5),脳内では,主に弓状核(arcuate nucleus of the hypothalamus:ARC),視床下部外側野(lateral hypothalamus:LH),視床下部室傍核(paraventricular nucleus:PVN),皮質部分およびdorsal vagal complexに発現している6)。さらに,GHSRは,下垂体,ストレス反応に関連した扁桃体および摂食や代謝を調節する視床下部に高濃度に発現している9)。GHSRは,報酬系調節部位である中脳辺縁系ドパミン系の腹側被蓋野(ventral tegmental area:VTA)内のニューロンにも発現している9)

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