腸管内には1000種を超える腸内細菌が棲息している
心身症やストレス関連疾患の病態と腸内細菌との関連が注目されている
腸と脳との機能連関を担う物質として短鎖脂肪酸が注目されている
ヒト腸内には1000種を超える腸内細菌が棲息している1)。これら細菌叢は宿主の生理機能ばかりでなく,炎症性腸疾患やアレルギーなどの病態形成にも深く関与していることが明らかにされている。
本稿では,これまでの筆者らの研究成果を紹介し,精神健康やストレス関連疾患と腸内細菌叢との関連について述べる。
生体は,有害なストレス刺激に曝露されたとき,主として視床下部─下垂体─副腎軸(hypothalamic-pituitary-adrenal axis:HPA axis)と交感神経系を活性化させて恒常性を維持しようとする。この主要な生体防御反応を構成するHPA axisの発達,成熟には,遺伝的要因のみならず生後の環境要因も深く関与していることが知られている。たとえば,出生早期の母子分離4)やハンドリング5)などの操作によって成長後のHPA axisの反応性がそれぞれ増強,減弱することを示した報告は有名である。
そこで筆者らは,生直後より定着してくる常在細菌叢は重要な外界因子のひとつであることから,HPA axisの発達,成熟にも深く関与している,という作業仮説を立て,様々な人工菌叢マウスを作製し,そのストレス反応性を無菌(germfree:GF)マウスと比較,検討した6)。その結果,GFマウスは通常のspecific pathogen free(SPF)環境下で飼育されたマウスと比較し,拘束ストレス負荷による副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)およびcorticosteroneの上昇反応が有意に亢進していた(表1)。単一細菌のみで構成された人工菌叢マウスを用いて検討したところ,Bacteroides vulgatus単一細菌マウスのストレス負荷によるACTH,corticosterone上昇反応はGFマウスと同一であったが,Bifidobacterium infantis単一細菌マウスでは,SPFマウスと同程度まで反応性が減じていた。以上の結果は,成長後のストレス応答の発達や制御に腸内細菌が関与していることを示している。
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