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B型肝炎ワクチン接種時期が乱れた場合の対応法

No.4745 (2015年04月04日発行) P.63

長田郁夫 (子育て長田こどもクリニック院長)

村上 潤 (鳥取大学医学部周産期・小児医学分野講師)

登録日: 2015-04-04

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

B型肝炎ワクチン(HBワクチン)についてご教示下さい。9月生まれの児。1回目を生後2カ月の11月7日,2回目を12月9日,3回目を翌年1月14日にワクチン接種しましたが,最近,接種時期の乱れ(3回目が早すぎた)に気づきました。児はかかりつけの患者家族であるため,とりあえず事実を話しますが,今後の対処はいかにすべきでしょうか。 (茨城県 Y)

【A】

ワクチンは生ワクチンと不活化ワクチンに分類されます。生ワクチンは1回で免疫を獲得でき,2回目の接種により抗体を長期に維持できるようになりますが,不活化ワクチンは2~3回の接種により,予防可能な抗体価を獲得した後に数カ月~1年程度の間隔をあけて追加接種をすることで長期に抗体を維持できます(文献1)。
HBワクチンは不活化ワクチンに分類されます。小児および成人のHBV感染予防において,初回接種から4週後の2回目の接種を終えた段階で免疫を獲得でき,初回接種から20~24週後の3回目の接種で長期にHBs抗体を維持できます(図1)(文献2)。
感染予防のためのHBs抗体価は,ワクチンを3回接種して4~8週後に測定します。測定法としてはEIA法(酵素免疫測定法)やCLIA法(化学蛍光免疫測定法)が用いられます。10IU/mL以上を基準としており,この抗体価に達しないときは再度接種を行います(文献2)。なお,HBs抗体価100IU/mL以上を高力価としてさらに確実な予防効果を示す値とする考え方もあります(文献3)。
HBワクチン3回接種により抗体が陽性化した後は,10~20年は抗体が持続します(文献3~5)。接種後,抗体が陽性化した後に陰性となった場合の追加接種の必要性については議論がありますが,免疫記憶は保たれているため追加接種は必要ないとする意見が多くあります(文献4,5)。ただし,感染のリスクが高い医療従事者などについては,感染防御のために追加接種を行うという考え方もあります(文献3)。
接種スケジュールがずれた場合,3回目の接種から4~8週後に抗体を測定して陽性であることが確認できればそのまま経過観察でよいと考えます(文献2)。しかし,長期に抗体を維持するためには,接種後に高い抗体価が得られるほうが望ましいでしょう。初回接種から3カ月以内にワクチン3回接種を終了するプロトコールに関する研究では,抗体陽性化率に差はないという意見が多くありますが,早期に接種を3回終了したグループは有意に抗体価が低値であるという報告もあります(文献2,6,7)。
今回の質問は,生後2カ月からHBワクチンを開始し,初回接種の4週後に2回目を接種したところまではスケジュール通りですが,3回目の接種を初回から9週後と規定より短い間隔で接種してしまったという状況です。このような場合,抗体が獲得できているかどうか,3回目接種から4~8週後の抗体測定が勧められます(文献2)。
ただし,本例においては既に3回目を接種後に時間が経過しているため,まずは可能な時期に抗体価を測定し,抗体が陽性(10IU/mL以上)である場合はこのまま経過観察でも可です(文献2)。抗体が陰性化している場合はワクチンを通常のスケジュールにしたがって再度3回接種することが必要となります。
なお,本例では3回目の接種が短い間隔であるため,規定通り接種した場合に比較して抗体価が低値となっている可能性があります(文献2,6,7)。再検査や再接種を行う抗体価の基準は定められていませんが,高力価の基準である100IU/mLを区切りと考え,抗体価を測定して100IU/mLを下回った場合,数年後に再度抗体を測定することを保護者に提案してもよいと思われます。

【文献】


1) 渡辺 博:わかりやすい予防接種. 改訂第5版. 診断と治療社, 2014, p33-9.
2) 岡部信彦, 他:予防接種に関するQ&A集(2014年版). 日本ワクチン産業協会, 2014, p194-200.
3) 国立感染症研究所:B型肝炎ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版).
[http://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r 9852000000bx23-att/2r9852000000bxqf.pdf]
4) 角田知之, 他:肝臓. 2011;52(7):491-3.
5) 岡部信彦, 他:日環境感染会誌. 2014;29(5):S1-4.
6) Bosnak M, et al:Pediatr Int. 2002;44(6):663-5.
7) 磯部親則, 他:Prog Med. 1991;11(11): 3002-6.

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