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尖圭コンジローマのPCR検査の解釈

No.4734 (2015年01月17日発行) P.66

笹川寿之 (金沢医科大学産科婦人科学教授)

登録日: 2015-01-17

最終更新日: 2016-12-12

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【Q】

ペニスの尖圭コンジローマのPCR検査(ハイリスク13種)の結果,31,45,58,59,68が陽性との結果が出た。
この結果は何を指すのか。1つの病変に複数のウイルスが寄生しているということか。
(富山県 N)

【A】

この場合には,2つの可能性がある。それは,複数の病変が混在する場合,あるいは,尿路などから放出されたヒトパピローマウイルス(HPV)の汚染(コンタミネーション)である。PCR法は検出感度が高いので,常に汚染の可能性を考える必要がある。

[1]尖圭コンジローマの定義と鑑別
回答を述べる前に,尖圭コンジローマの定義について記す。一般に,外性器に発生するHPV感染病変をすべて尖圭コンジローマと考えている臨床家が多い。しかし,HPV感染による疣を外陰部疣贅(gen-ital warts)と呼び,尖圭コンジローマ(con-dyloma acuminata)は疣贅の1つにすぎない。
尖圭コンジローマは鶏冠状の疣で,色は発症部位と同色か,やや色素沈着があり,表面が粗造である。この発症のほぼ100%がHPV6,11型によるものである(図1a)(文献1,2)。
(1)ボーエン様丘疹症
もう1つの疣はボーエン様丘疹症(bowenoid papulosis)と呼ばれるものであり,やや黒っぽく,表面はやや平滑な丸い疣である(図1b)。組織学的に細胞異型がみられることから,婦人科学では前がん病変(vulvar intraepithelial neoplasia:VIN)とされている(文献2)。
(2)腟前庭部乳頭
これらの疣贅との鑑別が必要なものに,女性の場合は小陰唇の内側,腟前庭部に発生する乳頭(vestibular papillae)(図2a)がある。これはHPV感染病変ではなく,正常バリエーション,すなわち形態の個体差と考えられている。
(3)真珠様陰茎小丘疹
男性の場合は,陰茎の亀頭の冠状溝に沿ってできる真珠様陰茎小丘疹(pearly penile papules)(図2b)や,陰茎や陰嚢にできるフォアダイス(for-dyce)も同様の正常バリエーションであり,疣贅との誤診に注意する必要がある(文献3)。
上記のような診断をしっかり行った上で,典型的な尖圭コンジローマであれば,HPV6,11型が陽性となるはずである。それにもかかわらず,この質問のように多数の高リスク型が検出されたということは,微細なボーエン様丘疹症が混在しているか,尿路から排出されたHPVによる汚染が考えられる。

[2]多重感染の可能性
筆者らは,男性尿道炎患者の尿や尿路から多くのタイプの高リスク型HPVを検出している(文献4)。多重型HPV感染を示す症例の子宮頸部病変の病理切片からmicrodissection法で組織を切り出して行った解析では,1箇所の子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)病変には,1つのタイプのHPVしか検出されなかった(文献5)。したがって,おそらく1つの疣には1種類のHPVタイプしか検出されないはずである。
筆者らの検討では,女性の外陰部の尖圭コンジローマ組織を採取して検査すると,HPV6型が約9割,HPV11型は約1割検出された。ところが,疣の表面をこすって採取して検査した場合には,尖圭コンジローマの1例では,HPV6型以外にHPV 16,18型が検出され,もう1例のボーエン様丘疹症(図1b)にHPV31,51型などの多重型HPV感染を検出した(文献2)。これら2例は免疫抑制状態にある患者であった。
したがって,多重感染がみられた場合には,異なるHPVタイプの感染病変の混在,あるいは尿や分泌液に存在するHPVによる汚染と考えるべきであろう。また,多重感染は若い人や免疫不全者に多い傾向があることも知っておいて頂きたい。

【文献】


1) Ljubojevic S, et al:Clin Dermatol. 2014;32(2): 227-34.
2) 笹川寿之:女性性器感染症. 岩破一博, 編. 医薬ジャーナル社, 2012, p170-80.
3) Rane V, et al:Aust Fam Physician. 2013;42(5): 270-4.
4) Shigehara K, et al:Int J Urol. 2010;17(6):563-8.
5) Quint W, et al:J Pathol. 2012;227(1):62-71.

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