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個人資産を事業資金に運用することの可否とその方法

No.4728 (2014年12月06日発行) P.72

堀 克巳 (駅前通り法律事務所 弁護士)

登録日: 2014-12-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

昨年亡くなった兄の会社を継いで代表取締役になったが,会社に事業資金がない。会社は株式会社の一人取締役で従業員はいない。私個人の財産を事業資金に当てたいが,その際,会社と私個人との間で正式に融資の契約書を交わさなければならないか。また,契約書は私個人で作成し,保管する方法でよいか。金利と借入期間は自由に設定してかまわないか。 (神奈川県 I)

【A】

取締役が個人財産を株式会社の事業資金に当てる方法としては,出資と貸付(融資)があるが,貸付の場合は,法律の規定で契約書(金銭消費貸借契約書)の作成や契約内容が規制されていることはない。したがって,法律論から言えば,契約書を作成しなくてもよく,金利は自由に決めることができ(金利を取らなくてもかまわないが,金利を取る場合は利息制限法の上限金利がある),借入期間の年数も自由である。
実際に,帳簿処理だけ行い,契約書を作らないこともあるようだ。しかしその場合,将来,どのような内容で私財を事業資金に当てたかもわからず,貸付ではなく,贈与であったと紛争になることもあろうから,契約書をぜひとも作成しておくべきである。
契約書を作成する際に必ず決めておくべきこととしては,(1)融資額,(2)金利,(3)返済時期と方法,が考えられる。
(1)の融資額は,実際に融資した額を記載すれば足りる。(2)の金利は,冒頭に記載した通り自由に決め,利息の支払い時期を決めておけばよい。(3)の返済時期と方法は,返済期日および一括返済か割賦返済かを決めておく必要がある。返済期日を決めておかないと,期限の定めがない貸付となり,いつでも返済請求が可能となるが,本当に貸付なのか疑義が生じる恐れもあるので,好ましくない。一括返済で返済期日を決めても,そのときに返済資金が会社になければ,新たな返済期日を定めれば足りる。会社の事業計画により,一定の利益が見込まれる場合には,割賦返済も検討すべきである。いずれの場合も,返済期間は自由に設定してかまわない。
契約書を作成し,会社の帳簿にも借入金としての計上と,利息支払いや返済の記帳を明確にしておくべきであり,税務調査の際にも,きちんと説明できるようにしたい。契約書は,通常2通作成し,取締役個人と会社の代表取締役の両名が記名・捺印し,それぞれ1通ずつ保管する。質問者の場合,1通は個人の書類として,1通は会社関係の書類の中に保管しておく。
なお,一人取締役で一人株主の場合は特に問題は生じないが,会社が金利を支払う場合は取締役への利益供与となるので,株主が複数で金利を受け取る契約の場合は,株主総会の承認を得ておく必要がある。

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