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糖尿病合併CKD患者に対する糖尿病治療薬の投与法

No.4746 (2015年04月11日発行) P.53

向山政志 (熊本大学大学院生命科学研究部腎臓内科学分野教授)

登録日: 2015-04-11

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」では,「糖尿病合併CKDでは,腎機能に応じた糖尿病治療薬を選択する必要がある」と記載されていますが,糖尿病治療薬は腎障害患者に対して禁忌となっているものも多く,臨床現場では血糖コントロールに悩む症例も少なくありません。
糖尿病合併CKD患者に対する腎機能を考慮した糖尿病治療薬の投与法について,腎臓内科の立場から,新薬の使用法や位置づけ,今後の展望なども含め,熊本大学・向山政志先生のご教示をお願いします。
【質問者】
田中元子:松下会あけぼのクリニック副院長

【A】

糖尿病性腎症で腎不全進行期や,種々の腎炎にステロイド治療を行って糖尿病が発症する場合など,中等度以上の腎障害患者に対して糖尿病治療を行うケースにしばしば遭遇します。腎臓内科外来で処方を求められることも多く,腎臓内科医も糖尿病診療の知識を求められています。
早期糖尿病性腎症をはじめとする糖尿病合併症の発症・進展を防ぐために厳格な血糖コントロールが最も重要であることは言うまでもありません(文献1)。しかし,腎障害が進行してくると,血糖コントロールで得られるベネフィットが減るとともに,同じ治療でも低血糖を生じやすく治療薬変更を迫られる場合があります。また高血圧,心血管疾患や貧血,電解質異常,骨症など様々な合併症が生じるため,実に多くの点に気を配りながら並行して糖尿病の治療を行うことが求められます。さらに,透析患者を含むCKDステージG4ないしG5の患者において,どの程度の血糖コントロールにすべきか,十分なエビデンスがないのが実情です。
日本腎臓学会では,「CKD診療ガイド2012」,ついで「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」の中で,糖尿病合併CKDの治療方針に関して,「腎機能に応じた治療薬選択」と「個々の患者のリスクに応じた血糖コントロール」を挙げています(文献2)。
インスリンはあらゆる程度の腎障害患者に対して使用可能ですが,高度の腎障害では半減期が延長するなどの理由で,減量が必要となることもしばしばです。一方,ビグアナイドやsulfonylurea(SU)薬は禁忌となっています。チアゾリジンや新薬として期待されるsodium-glucose co-transporter 2(SGLT2)阻害薬も高度腎障害では禁忌です。
ステージG4以降(eGFR<30)の腎障害において使用可能な経口抗糖尿病薬としては,dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)阻害薬,α-グルコシダーゼ阻害薬(α-glucosidase inhibitor:α-GI),一部のインスリン分泌促進薬があります。特に,DPP-4阻害薬は低血糖のリスクが低く,透析患者を含む高度腎障害患者でも比較的安全に使用できます。
肝代謝が主なリナグリプチンとテネリグリプチンは常用量で使用できますが,ビルダグリプチンは50mg/日がよいでしょう。ただし,腎代謝の要素が大きいシタグリプチンはステージG4以降は慎重投与で,アログリプチンも減量が必要です。
ちなみに,Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)のガイドラインでは,α-GIは禁忌,一方,チアゾリジンと第2世代以降のSU薬は投与可能など(文献3),禁忌薬の基準は必ずしも万国共通ではありません。
進行期のCKDにおける血糖コントロール目標はHbA1cで7%前後と考えられます(文献1~3)。末期腎不全でのコントロール基準について,わが国では心血管イベント既往や低血糖傾向のある場合にグリコアルブミン値<24.0%を暫定目標とし(文献4),また米国でもHbA1cで7.0~7.9%がよいとされています(文献4,5)。今後,これらに対するエビデンスの集積とともに,新薬の意義についても長期的な効果の検証が必要でしょう。

【文献】


1) Araki S, et al:Diabetes. 2005;54(10):2983-7.
2) 日本腎臓学会, 編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013. 東京医学社, 2013, p82-8.
3) National Kidney Foundation:Am J Kidney Dis. 2012;60(5):850-86.
4) 日本透析医学会, 編:日透析医学会誌. 2013;46(3):
311-57.
5) Ricks J, et al:Diabetes. 2012;61(3):708-15.

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