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【識者の眼】「熱中症診療ガイドラインの改訂」薬師寺泰匡

No.5238 (2024年09月14日発行) P.66

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2024-09-02

最終更新日: 2024-08-30

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7月に日本救急医学会が「熱中症診療ガイドライン2024」を公表した。

前回2015年のガイドラインでは、それまで熱失神、熱疲労、熱射病という分類がなされていた熱中症に対して、熱中症の診断基準と、重症度分類をつくったことが画期的であった。熱中症は「暑熱環境にいる、あるいはいた後」の症状として、めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、強い口渇感、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温等の諸症状を呈するもので、感染症や悪性症候群による中枢性高体温、甲状腺クリーゼなど、他の原因疾患を「除外」したものとされ、I度、Ⅱ度、Ⅲ度と重症度がわけられていた。最重症のⅢ度熱中症は、中枢神経症状(JCS≧2、痙攣発作、小脳症状)があるか、肝腎機能障害があるか、血液凝固異常を伴う、とされた。Ⅲ度熱中症は、入院が必要で、時に集中治療室の全身管理をも要するような病態である。予防と早期治療に努めるべく啓発につなげてきたが、それでも救命に至らなかったり、障害を残したりすることもあり、現場の人間として悔しい思いをすることもあった。

このような現状を受けて、最重症の熱中症を適切に早期治療に結びつけるべく、このたびの改訂で新たにⅣ度熱中症が加わった。Ⅳ度熱中症は「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」のものを指す。ここで重要なのは深部体温である。よく利用される腋窩温は表面体温に当たる。深部体温は直腸温、食道温などを測定しなければならない。表面体温は、発汗などで変動することがあり、深部体温が40℃以上であるにもかかわらず、腋窩温35℃台ということで搬送されてくることも経験する。救急外来では、ぜひ深部体温を測定する設備を整えてほしい。膀胱温の測定ができる膀胱留置カテーテルもあるので、それでも代用がきく。治療は深部体温が38℃になるまで冷却することが推奨される。治療目標を見誤ることにもなるので、深部体温の測定を標準化して頂きたい。なお、現場や診療所などで深部体温の測定が困難な状況を考慮し、今回の改訂では「表面体温40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8(もしくはJCS≧100)」という条件を満たすものをqⅣ度として設定してある。この場合、速やかに深部体温の測定が可能な環境への転送が望まれる。

治療について、熱放散を促すべく輸液を行い、冷水浸水や蒸散冷却を行うことは各施設でこれまで行ってきたことを進める方向に違いはない。また、暑熱順化などの予防策や、熱中症リスク軽減を図るための因子についてはエビデンスが十分ではないことにも触れられている。とにかく暑熱環境を避けるよう啓発をすること、早期発見早期治療につなげることが重要なのが現状である。まだまだ残暑厳しく、10月までは例年より気温が高くなることが予想されている。改訂版のガイドラインを参考に、熱中症対策を続けて頂ければ幸甚である。

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[Ⅳ度熱中症][日本救急医学会

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