テストステロン補充療法は性腺機能低下男性の健康関連QOL改善が報告される一方、血栓塞栓性イベントリスク上昇が懸念されてきた。それらイベントの著明上昇を報告したランダム化比較試験(RCT)や大規模観察研究があるためである。
そこでテストステロン補充療法の安全性を確認すべく大規模RCT“TRAVERSE”が実施され、その結果が6月16日、NEJM誌に掲載された。動脈血栓塞栓症の危険性は上げないようだが、不整脈や腎障害など新たな懸念材料も浮上した。
米国・クリーブランドクリニックのA. Michael Lincoff氏らによる報告を紹介する。
TRAVERSE試験の対象は、45~80歳で心血管系(CV)疾患の既往あるいはリスク因子があり、かつ「テストステロン濃度<300ng/dL」の症候性性腺機能低下症5246例である。全例、米国で登録された。
平均年齢は63.3歳、白人が80%を占めた。テストステロン濃度中央値は227ng/dLである。
これら5246例を、1.62%テストステロン・ジェル(テストステロン濃度:350~750ng/dLに調整)群とプラセボ群にランダム化し、二重盲検下で平均33.1カ月観察した(治療期間平均値は21.8カ月)。
その結果、観察期間中、両群とも60%強が脱落したが、ITT解析の結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中」発生率は、テストステロン補充群7.0%、プラセボ群7.3%で有意差はなかった。
またこの解析をもとに、テストステロン補充群の安全性はプラセボに対し非劣性とされた(P<0.001)。
ただし「介入を要する非致死性不整脈」(5.2 vs. 3.3%)、「心房細動」(3.5 vs. 2.4%)、「急性腎障害 (injury)」(2.3 vs. 1.5%)はいずれもテストステロン補充群で有意に多発していた。Lincoff氏らはこれを「予想外」としている。
また検定は示されていないが、「肺塞栓症」もテストステロン補充群でより多く認められた(0.9 vs. 0.5%)。試験開始後6カ月間の収縮期血圧も、テストステロン補充群で1.8mmHgの有意高値だった。
CV系以外ではPSA値の上昇が、テストステロン補充群で有意に大きかった(0.20 vs. 0.08ng/mL)。
これらがもたらす臨床的意義については、考察されていない。
本試験はAbbVieとAcerus Pharmaceuticals、Endo Pharmaceuticals、Upsher–Smith Laboratoriesの4社から資金提供を受け実施された。また試験手順書(プロトコール)作成にはスポンサーも関与した。