株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【文献 pick up】日本人NVAF患者ではSBP≧136mmHgでも脳出血や死亡リスク増加は観察せず―J-RISK AF

宇津貴史 (医学レポーター)

登録日: 2023-01-19

最終更新日: 2023-01-19

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

現在、日本高血圧学会ガイドラインは、心房細動(AF)例の血圧管理として「収縮期血圧(SBP)<130mmHg」を推奨している。根拠として挙げられているのは、世界25カ国のAF例で経口抗凝固薬間の有用性を比較した2ランダム化比較試験データの併合解析(7329例)である[SPORTIF Ⅲ/Ⅴ, 2003。同解析ではSBP「>140.8mmHg」に比べ「122.7131.3mmHg」群で、「脳卒中・塞栓症」リスクは有意に低かった。

では日本人のデータではどうなるだろう。わが国の前向きAFレジストリの併合データであるJ-RISK AF研究からの解析が、2022129日、EHJ Open誌サイトに掲載された[Kodani E, et alSBP「≧136mmHg」でも「125-135mmHg」に比べ脳梗塞や大出血のリスクは増えず、逆に「<114mmHg」で死亡リスクが有意に高くなっていた。概要を紹介したい。

解析対象となったのは、観察開始時の血圧値が明らかだった非弁膜症性AF(NVAF)15019例である。平均年齢は70.0歳、男性が69%を占めた。73%が抗凝固薬を服用し、降圧薬の服用率は63%だった。また心不全の合併率は25%だった。

これら15019例の2年間「脳梗塞」発生率は1.0/1000例・年、「大出血」は1.2/1000例・年、「心血管系(CV)死亡」は1.0/1000例・年、「総死亡」は2.7/1000例・年だった。

そこで観察開始時SBPの四分位群別に、上記イベントリスクを比較した。降圧薬の服用率は、SBP最低四分位群(<114mmHg)が60.1%、第2四分位群(114124mmHg)は60.7%、第3四分位群(125135mmHg)では65.9%、最高四分位群(≧136mmHg)も64.0%―である。 

まず「脳梗塞」と「大出血」のリスクを比較すると、いずれも未補正ハザード比(HR)はSBP四分位群間に有意差を認めなかった。特にSBP「≧136mmHg」群でも「125135mmHg」群に比べ、脳梗塞HR1.18(95%信頼区間[CI]0.851.63)、大出血も1.12(同:0.831.50)だった。CV死亡(1.170.811.69)、総死亡(1.180.941.47)も同様で、「≧136mmHg」群における有意なリスク上昇は認めなかった。

一方SBP「<114mmHg」群では、「CV死亡」と「総死亡」の未補正リスクが、「125-135mmHg」群に比べ有意に高くなっていた(順にHR1.97[95%CI1.402.78]1.89[1.532.33])

これらの結果は、CHA2DS2-VAScスコアやAFタイプ、抗血栓療法や降圧薬の有無などを補正後も同様だった。そのため原著者たちは、観察開始時SBP「<114mmHg」は死亡の独立した危険因子と考えているようだ。

次にSBP150mmHg」の上下でも上記イベントリスクの比較を実施した。「≧150mmHg」では脳梗塞・塞栓症と脳出血リスクの著増が、伏見AFレジストリから報告されているためである[Ishii M, et al. 2017

すると、「脳梗塞」と「大出血」の2年間発生率は150mmHg「未満」群に比べ「以上」群で有意に高かった反面(脳梗塞:1.8 vs. 2.8%、P=0.007、大出血:2.0 vs. 3.0%、P=0.018)、「CV死亡」と「総死亡」の発生率には有意差はなかった(CV死亡:いずれも1.8%、総死亡:4.7 vs. 5.3%、P=0.362)。

また諸因子を補正すると、150mmHg「以上」群で有意にリスクが高くなっていたのは「大出血」だけだった(HR1.6495%CI1.122.40)。

この結果は今後のわが国ガイドラインにどのように反映されるだろうか。

本研究は、日本医療研究開発機構から資金提供を受けた。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top