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PT-INR,病態によって評価が変わるのはなぜ?

No.5139 (2022年10月22日発行) P.48

山田真也 (金沢大学附属病院血液内科)

朝倉英策 (金沢大学附属病院高密度無菌治療部病院臨床教授)

登録日: 2022-10-19

最終更新日: 2022-10-18

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プロトロンビン時間国際標準比(prothrombin time-international normalized ratio:PT-INR)は,貧血では過小評価,多血症では過大評価になると聞きますが,なぜなのでしょうか。その原理をご教示下さい。(鹿児島県 T)


【回答】

【凝固検査用採血管内の血漿と抗凝固薬(クエン酸ナトリウム)の比率が変わるから】

端的にお答えしますと,「血漿と抗凝固薬(クエン酸ナトリウム)の比率が変わるから」です。その原理を詳しく見ていきましょう。

まず,PT-INRは以下の計算式で算出されます。

PT-INR=(患者PT/正常PT)ISI

ISI:international sensitivity index,国際感度指数

なお,ISIは試薬ごとに決まっており,1に近いほど理想的な試薬とされます。また,患者PTが正常であれば,試薬に関係なくPT-INRは1になります。

PT-INRを正しく測定するには,患者PTを正しく測定できるかどうかにかかってきます。

凝固検査用採血管には,抗凝固薬として3.2%のクエン酸ナトリウムが入っています。正しい検査結果を得るためには,クエン酸ナトリウムと血液が1対9の割合になるように,過不足なく採血を行う必要があります(真空採血管では,この比になるように設定されています)。

それでは,今回ご質問いただいた,貧血や多血症の場合はどうでしょうか。クエン酸ナトリウム入り採血管内の血液検体を遠心すると,血液は血球成分(下層)と血漿成分(上清)に二分されます。貧血や多血症患者においては,正しい採血量で検査を行ったとしても,以下の原理によって,検査値が真の値を示さない可能性があります(図1)。

 

●貧血:血球成分が少なく,相対的に遠心上清の血漿成分が多くなります。そのため,血漿中のクエン酸ナトリウムの比率が小さくなり,PTは本来の値より短縮して(PT-INRは低値に)測定されます。

●多血症:血球成分が多く,相対的に遠心上清の血漿成分が少なくなります。そのため,血漿中のクエン酸ナトリウムの比率が大きくなり,PTは本来の値より延長して(PT-INRは高値に)測定されます。

ただし,ヘマトクリット(hematocrit:Ht)10%の重度の貧血や70%の多血症であったとしても,理論上測定値の誤差は数%~10%程度です1)

なお,Ht>55%の検体では,採血管内のクエン酸ナトリウム液量の補正を推奨する報告があります2)。補正は,以下の計算式で行います。

C(mL)=(1.85×10−3)×〔100−Ht(%)〕×〔血液添加量(mL)〕

C:採血管内に残すべきクエン酸ナトリウム液量(mL),1.85×10−3:定数,血液添加量:2.0mL採血管であれば1.8mL,5.0mL採血管であれば4.5mLとなる

例として,Ht 70%,40%,20%における計算式を図2aに示しました。また,Ht値により,クエン酸ナトリウムを何mL残すべきかを図2bのグラフに示しました。あるいは,真空採血管のフタをあけて,適切な用量の血液をシリンジで採血管に注ぐという方法もあるかと思います。その際に,どれだけの血液を注ぐべきかという目安のグラフを図2cに示しました。しかし,いずれの方法も操作が煩雑なため,実臨床では実施しづらいかもしれません。

なお,多血症とPTの関係性については,いくつか報告があります。正常検体に対して理論上Ht 60%と同濃度となる抗凝固薬を添加した検討では,PTはさほど影響を受けませんでした。また,Ht 60%までであれば,通常通りPTの検査は可能ではないかとする報告もあります3)。一方で,Ht 55~72%の患者検体を用いた検討では,抗凝固薬の調整の有無でPTが有意に異なったため,Ht>55%の患者では抗凝固薬の調整が必要であると論じている報告4)もあり,見解は定まっておりません。日常臨床では,極端な多血症でない限り,通常の方法で採血を行い,臨床医の視点で腑に落ちない結果が返ってきたときに,上記の方法を検討するとよいでしょう。

【文献】

1)内場光浩:日血栓止血会誌. 2018;29(1):28-34.

2)Arkin CF, et al:Collection, transport, and processing of blood specimens for testing plasma-based coagulation assays and molecular hemostasis assays;approved guideline. 5th ed. Clinical and Laboratory Standards Institute, 2008, p8-9.

3)Austin M, et al:Clin Lab Sci. 2013;26(2):89-94.

4)Marlar RA, et al:Am J Clin Pathol. 2006;126 (3):400-5.

【回答者】

山田真也 金沢大学附属病院血液内科

朝倉英策 金沢大学附属病院高密度無菌治療部 病院臨床教授

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