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健康の社会的決定要因のエビデンス─社会関係の欠如は1日15本の喫煙と同程度の早世リスク[プライマリ・ケアの理論と実践(158)]

No.5136 (2022年10月01日発行) P.12

長谷田真帆 (京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻社会疫学分野)

登録日: 2022-09-29

最終更新日: 2022-09-28

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SUMMARY
健康の社会的決定要因は,時には喫煙や肥満と同程度の影響を,人の健康に及ぼす可能性が知られている。その影響は一生涯にわたり,あらゆる心身の健康と関連して,健康格差を生じうることが明らかにされている。

KEYWORD
集団寄与危険割合(population attributable fraction)
疫学用語かつ健康格差指標のひとつ。全員が「最も指標の良い集団と同じ値に到達した」(ある要因への曝露がまったくなくなった)と仮定したときに,ある疾病の有病割合(または発生や死亡)を減らせる割合。

長谷田真帆(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻社会疫学分野)

PROFILE
2007年北海道大学卒。札幌で初期研修,長野で後期研修,東京大学で博士号取得。2020年より現職,リモートワークで研究・教育に従事。家庭医療専門医,在宅医療専門医,日本疫学会若手の会代表世話人。一児の母。

POLICY・座右の銘
心は熱く,頭はクールに

本稿では,健康の社会的決定要因(social determinants of health:SDH)が具体的にどの程度・どのように・どのような心身の健康と関連することが知られているか,簡単に紹介する。

1 SDHと健康との関連の強さ

比較的大規模のデータを用いることで,SDHと健康との関連を定量的に評価した研究の蓄積が進んでいる。ここでは人と人との繋がりといった社会関係の影響を一例として説明する。

孤立(家族やコミュニティとほとんど接触がない,客観的な状態)は孤独感(仲間付き合いの欠如・喪失による,主観的な感情)を持ちやすく,不眠,抑うつや自殺のリスクを上げ,さらに心血管系疾患への罹患や認知機能低下などとの関連も指摘されている。あるメタアナリシスによると,個人の社会関係の欠如は1日15本程度の喫煙と同じくらい早世リスクを上げるとされる。さらに孤立や孤独感はどちらも早世リスクを約1.3倍上昇させ,これは肥満による死亡リスク上昇と同程度のインパクトを持つと推計されている1)

日本でも高齢者の孤立が要介護認定や死亡リスクと関連することが知られているが,山梨県などで行われている「無尽」(定期的にメンバーが集まり,お金を出し合いそのとき必要な人が全額受け取るという地域のインフォーマルな金融)活動に参加している高齢者では,3年後の活動能力が1.75倍維持されやすいとされる2)。ただし,その活動が交流を主目的にしたものでは健康に保護的な作用を持つものの,純粋に金融目的の場合は逆に健康を害する可能性も指摘されている。「強すぎる」社会関係はかえって健康に悪影響をもたらす可能性には注意が必要であり,単純に人と人が繋がれば・繋げれば良い,というものではない。

なお地域レベルの要因と健康との関連を検討した論文では,推定されるリスク比が比較的小さいことがあるが,だから影響が小さいとは言い切れない。その要因が地域に暮らす住民全体に関わると考えれば,集団寄与危険としては大きくなる場合も少なくない。







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