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【識者の眼】「オミクロン株と口腔」槻木恵一

No.5121 (2022年06月18日発行) P.60

槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)

登録日: 2022-05-25

最終更新日: 2022-05-25

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新型コロナウイルスは、2022年5月現在、オミクロン株が主流となっている。武漢株からデルタ株までとオミクロン株とでは、その症状に違いがあり、オミクロン株は、咽頭痛の頻度が高く、味覚異常は少ない。また、肺炎の状況も異なり重症化肺炎の頻度がデルタ株より少ないことが認識されている。このような違いは、感染メカニズムの違いであるようで、オミクロン株は、当初注目されたプロテアーゼであるTMPRSS2を用いないで、エンドサイトーシスでウイルスが細胞内に進展後、細胞内のカテプシンBを利用して開裂が起こることが報告された。

オミクロン株は、若い世代ではほとんど死亡例がないが、80歳以上では死亡のリスクが非常に高い。その死亡原因が、これまでと異なり重症化肺炎だけでなく、肺炎は中等症でも、いわゆる基礎疾患の増悪や誤嚥性肺炎による死亡例の存在が知られてきた。これまでも基礎疾患は、新型コロナウイルス感染症での死亡リスクを上げることが知られており、オミクロン株でもその状況は変わらないが、高齢者の基礎疾患は、以前より死因と深く関連していると考えられる。

基礎疾患として重要なのは糖尿病や循環器系疾患であり、これらの基礎疾患は、病態の修飾要因として歯周病と関連性が深い。糖尿病は、歯周病が存在すると血糖のコントロールに影響し、医科歯科連携治療の代表的な疾患である。また、誤嚥性肺炎による死者も増えているとすると、口腔からの細菌の流入が起きていることが想定される。筆者の研究室では、新型コロナウイルス感染症での死亡症例の解析を進めているが、概して口腔内は不潔な状態であり、舌苔が著明に付着していることが多い。口腔が良好な衛生状態であるとインフルエンザウイルス感染症の罹患率が減ることが示されており、新型コロナウイルス感染症でもエビデンスの蓄積が求められる。

しかし、口腔の状態と新型コロナウイルス感染症の関連について、大規模な調査はいまだに行われておらず、未解明の点が多い。新たな変異株や新興感染症が出現する前に、口腔とウイルス感染症における医科歯科連携による対策スキームの確立を期待したい。口腔は、医科から忘れられがちであるが、ウイルスの侵入口であり門番でもある。感染対策における口腔の存在を強調したい。

槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)[新型コロナウイルス感染症][医科歯科連携]

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