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最後の学会[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(388)]

No.5099 (2022年01月15日発行) P.69

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2022-01-12

最終更新日: 2022-01-11

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昨年の10月から12月の半ばまで、むちゃくちゃに忙しかった。緊急事態宣言が終わって、それまでにペンディングになっていた用件が一気にリアルでおこなわれたというのが大きい。長い教授生活だが、おそらくいちばん忙しい2カ月半だった。

岩手、鹿児島、名古屋、横浜、東京にはもちろん何回も行った。大阪界隈での講演会もたくさんあった。そんな忙しさの中、いちばん楽しみにしていたのは、パシフィコ横浜で開かれた分子生物学会だった。

学会活動にはまったく不熱心である。それでも、断り切れずに小さな学会を2回主催したし、分子生物学会のような大きな学会の副会長格は数回こなしてきた。浮世の義理というやつだ。しかし、じゃまくさいので、最近は、呼ばれない限り学会にはほとんど参加しないという横着さであった。

若いころは、顔を売らないといけないので、まじめに学会に出かけていた。世の中には不思議なほどたくさんの学会がある。全盛期(?)には、国内外あわせて10ほどの学会に所属していたが、いまや3つを残すだけ。そのひとつが分子生物学会なのだ。

定年後は、学術活動から完全に足を洗うつもりなので、学会には出席しないと心に強く決めている。そうなると、もう二度とお会いしない先生がたくさん出てくるだろう。今生の別れを惜しまんと、ハイブリッドで開催された分子生物学会に出席した。

コロナ前に比べるとリアルの参加者は3分の1程度だろうか。それでも、ポスターセッションは活気にあふれていて楽しかった。久しぶりにリアルでプレゼンできるので、みんな気合いがはいっていたせいだろう。聴衆達もとても嬉しそうだった。

知り合いに会うたびに、定年で完全引退なので、もうお目にかかるのは最後かもしれませんとご挨拶。全員が、嘘でしょう、先生のような人が、というレスポンスだった。しかし、どんな人やっちゅうねん。

思い出話、これからの生活、生命科学の将来などなど、いろんな会話を交わしたのだが、どれもがとても楽しかった。それに、とても名残惜しかった。かといって、やっぱりまた学会にとは思わない。決意は固い。

未練を残してぐずぐずしたくない。意固地だと思われるかもしれませんけど、定年というのはこういったことをスパッと断ち切るためにあるのとちがいますやろか。

なかののつぶやき
「学会などでひさしぶりに会う人には、よく『お元気ですか?』とか挨拶を交わしますよね。『ぼちぼちです』とか、『まぁまぁです』とか答えるのが普通のようですが、わたしはいつも『むっちゃ元気です!』と言うことにしています。だって、そうなんですから。なのに、一瞬あっけにとられたような顔をされることが多いのであります。みんな、他人の健康を願っているように見せて、ホンマはそう思ってないんとちゃいますかね」

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