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乳がん診断と治療の最前線[J-CLEAR通信(130)]

No.5078 (2021年08月21日発行) P.31

下村昭彦 (国立国際医療研究センター病院乳腺・腫瘍内科)

登録日: 2021-08-22

最終更新日: 2021-08-17

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1 はじめに

がんは国民の2分の1が生涯に罹患する疾患であり,ほとんどすべての医療者が何らかの形で関わる。がん診療は日進月歩である。診断や治療の開発のスピードは10年前と比較しても相当速くなっており,日々のアップデートが重要である。本稿では乳がん診断と治療の最前線と称して,多岐にわたる話題の中からリキッドバイオプシーと抗体-薬物複合体に着目して概説する。

2 リキッドバイオプシーの乳がん診断への応用

がん生物学,がん治療の発展とともに,治療方針を決定する際に組織型などの基本的な情報のみならず,腫瘍の特徴を表すバイオマーカーを検索することが重要になっている。従来は治療方針決定の際に,手術検体など初回治療前の組織を用いてバイオマーカー検索をしていた。一方で,再生検は再発巣の部位などによって侵襲や要求される技術レベルが異なるため,リスクが高く行えないこともある。

そこで,血液など簡便に採取できる検体を用いてがんの診断やバイオマーカーの検索,治療経過のモニタリングなどを行う試みがリキッドバイオプシーである。血液中には,腫瘍細胞(circulating tumor cells:CTCs)や腫瘍から遊離したDNA(circulating tumor DNA:ctDNA),エクソソームやマイクロRNAなどが存在し,腫瘍の状態をリアルタイムに反映している。当初は転移がんの治療標的の探索や治療効果モニタリングなどへの応用を中心に研究が実施されていたが,近年は早期診断,再発診断に用いられるようになってきた。

早期診断はCTCsなど様々な物質を用いたものが研究されてきた。筆者の所属する研究グループではその中でもマイクロRNA(miRNA)と呼ばれる物質に着目し研究を実施した。miRNAは20〜24塩基で構成される小さなノンコーディングRNAである。特定の遺伝子発現を抑制するなどして細胞の活動を制御する。哺乳類のゲノムの約2%を占めると考えられている。miRNAの発現状況は疾患の状態(早期vs.転移性など)によって変化することが示唆されていることから,血液を用いて簡便に疾患の有無を判別したり治療効果を判定したりするリキッドバイオプシーに有用であると考えられている。

筆者らは5つのmiRNAの組み合わせで乳がんを健常人と判別できることを報告している1)。現在は日本医療研究開発機構の支援を受けて(研究代表者:加藤健 国立がん研究センター中央病院頭頸部内科科長),検診コホートでの有用性を明らかにする臨床研究を実施している。研究班は国立がん研究センター,国立国際医療研究センター,日本対がん協会が主体となって構成され,現在のところ鹿児島県,愛媛県,北海道,福井県の検診コホートで検診受診者を対象としてリクルートが進められている。今後は沖縄県にも拡大していく予定である。検診で要精検となった方を2000例,精検不要であった方を1000例リクルートしmiRNAでがんを診断できる感度,特異度を検証する(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/1214/index.html)。

続いて,ctDNAの再発診断への応用について述べる。Natera社が開発しているSignateraは組織検体の全エクソンシーケンスを行い,患者ごとの再発予測DNAのセットを作成し,それらのDNAのctDNA中の発現を測定する診断キットである。SignateraによるctDNAモニタリングにより,再発を認めた18人中16人で臨床的再発前にctDNAが検出され,その期間は中央値8.9カ月で最長24カ月であった。ctDNAが検出されなかった症例は,1例は局所再発のみ,1例は骨転移を伴うがリキッドバイオプシーを行う13日前まで化学療法が行われていた。一方,再発を認めない症例ではctDNAは検出されず,高い特異度が示された2)。新たな腫瘍マーカーとしての利用が期待されており,近い将来の臨床応用へ向けた準備が進められている。

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