乳腺症(mastopathy)とは,乳管上皮や間質の増殖性変化と,腺管の減少や線維化などの退行性変化などが複合してみられる非腫瘍性良性病変である。実際の組織像では,乳管過形成,小葉過形成,腺症,アポクリン化生,囊胞,線維腺腫性過形成が混在してみられる。若年~閉経前の女性に多くみられ,乳房痛,硬結,腫瘤などの臨床症状を呈する1)。
乳腺症は,多様な組織学的形態変化を特徴とし,画像所見もまた多彩である。超音波では,小腫瘤,限局性低エコー域,小囊胞多発,豹紋状などの像を呈する。マンモグラフィでは,両側乳房にびまん性の微小円形または淡く不明瞭な石灰化を認めることが多い。悪性との鑑別を要する画像所見の場合には,穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology:FNAC)や針生検(core needle biopsy:CNB),吸引式針生検(vacuum-assisted biopsy:VAB)を実施する。FNACやCNB,VABで良悪性の鑑別が困難な場合は,全体像を適切に評価することを目的として切除生検が行われる。
また,糖尿病性乳腺症と呼ばれる膠原線維の増生を呈する病変があり,しばしば悪性との鑑別が必要となる。糖尿病患者においては,糖鎖形成や分子間結合の増加が膠原線維の分解を妨げることがあるため,誘因の可能性として報告されている2)。
乳腺症は治療が必要な疾患ではないため,自治体検診や職域検診をはじめとする定期検診の継続でよいが,中には乳癌との鑑別が困難で慎重な経過観察を要する症例があり,注意が必要である1)。
乳房痛に対しては,経過観察となることがほとんどだが,疼痛が強い場合は鎮痛薬の処方などの対症療法を行う1)。
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