株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

赤い罠 ディオバン臨床研究不正事件

2017年度日本医学ジャーナリスト協会賞大賞 受賞作

定価:2,200円
(本体2,000円+税)

数量

カートに入れる

立ち読み

著: 桑島 巖(臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)理事長/東京都健康長寿医療センター顧問)
判型: 四六判
頁数: 248頁
装丁: 口絵カラー
発行日: 2016年09月28日
ISBN: 978-4-7849-4447-7
版数: 第1版
付録: -

ついに司法の手に委ねられた前代未聞の研究不正事件―─

論文発表当初から疑義を抱き、問題点を指摘し続けてきた医師が真実を闇に葬り去ろうとするあらゆる勢力に抗して、事件の真相に迫る。
「わが国の臨床研究に対する世界的な信頼を回復するために、また事件の再発を防止するために、董狐の筆に倣って真相に迫りたい」(「プロローグより」)

[推薦メッセージ]
「現役の臨床医が、現場から臨床研究の間違いを質し、そのあり方を諭す一冊」―─今村聡 日本医師会副会長

2017年度日本医学ジャーナリスト協会賞 大賞〈書籍部門〉受賞

「1通のメールをきっかけにギリギリと不正を追い詰めていく過程は、推理小説のように読者を引きこむ。東京地裁の公判を欠かさず傍聴して事件の全体像を描く手法も、ジャーナリスト顔負けだ」


目次

プロローグ

用語解説―予備知識として

第1章 国際学会で発表! 日本発大規模臨床試験

第2章 不正発覚―それは一通のメールから始まった

第3章 真相究明と再発防止を求めて─厚労省調査委員会

第4章 舞台は法廷へ―45例の架空イベントをめぐる攻防

第5章 “赤い罠”に巻き込まれた人たち─それぞれの背景と言い分

第6章 「降圧を超えた効果」をめざす企業と営業マンと化した専門家たち

第7章 臨床試験をめぐる諸問題、再発防止への課題

エピローグ

資料

参考文献

おわりに

もっと見る

閉じる

序文

プロローグ

2014年6月11日、高血圧治療薬に関わる臨床研究論文不正に関与した疑いで製薬会社の元社員が逮捕されるという事態が発生した。研究論文不正で逮捕者が出るという事例は、医学界のみならず、あらゆる学問領域において前代未聞の出来事である。

遡ること1年4カ月前の2013年2月、日本から発表されていた高血圧治療薬「ディオバン」(一般名=バルサルタン)に関する大規模臨床試験「京都ハート研究」の論文が、内容に数多くの疑義があるとの理由によって掲載誌「European Heart Journal」から撤回処分を受けた。その後、京都府立医科大学から依頼を受けて行われた外部調査の結果、その成績の中に捏造されたデータが多数含まれていたことが判明した。

続いて7月下旬には、やはりディオバンに関わる臨床試験「慈恵ハート研究」でもデータが操作された可能性があることが、慈恵会医科大学調査委員会の報告によって明らかになった。わが国から世界に発信された臨床研究論文に捏造や改竄の疑いがあるというニュースは、わが国のみならず海外のメディアも巻き込んだ大騒動に発展した。

厚生労働省は、わが国の医療の信頼性を損なう看過できない事態として、真相究明と再発防止を目的とした調査委員会を立ち上げ、2013年夏から2014年春にかけて関係各機関と関係者に対する詳細な聞き取り調査と議論を行った。そして厚労省は2014年1月、ディオバンの製造販売元ノバルティスファーマ株式会社と元社員について東京地方検察庁に告発状を提出し、ついには立件、関係者が薬事法違反の疑いで逮捕されるという事態にまで進展したのである。そして、真相の解明は法廷の場に委ねられた。

本事件の重大性は、不正に捏造された臨床研究論文によってわが国の医師が適正な高血圧治療薬の選択を行えなかった可能性があることに加え、何よりもわが国の臨床研究に対する世界的信用を失墜させてしまったことにある。

今回の事件では、医療系ネットでの書き込みのほか、マスコミ関係者の視点によってその顛末が書かれた本も出版されている。それに対し本書は、ディオバン関連論文について発表当初から内容に疑義を抱き続けてきた高血圧の専門家としての視点、また、日本医師会から推薦を受けた厚労省調査委員会委員としての視点から事件の経緯を整理し、問題点を明らかにしようとするものである。

本書では、ディオバンの臨床研究不正にまつわる事件を「ディオバン事件」あるいは「ディオバン臨床研究不正事件」「ディオバン論文不正事件」と呼ぶことにする。この問題が明らかになる最初のきっかけは、京都大学・由井芳樹氏の慈恵ハート研究へのConcern(懸念)が国際的医学雑誌「ランセット」に掲載されたことである。由井氏の投稿がなければ本件は永遠に闇の中に葬られていたであろう。その意味で由井氏の功績はきわめて大きいことをまず銘記しておきたい。

本事件の最終解決は司法の手に委ねられることになった。しかし、二つの論文の発表直後からその問題点を指摘してきた一人の医師として現段階での事実関係を明らかにしておくことは、わが国の臨床研究に対する世界的な信頼を回復するためにも、また事件の再発を防止するためにも有意義と考え、董狐(とうこ)の筆に倣って真相に迫りたいと思う。

もっと見る

閉じる

レビュー

推理小説のように読者を引きこむ ジャーナリスト顔負けの手法

第6回(2017年度)日本医学ジャーナリスト協会賞 プレスリリースより(2017/10/16)
日本医学ジャーナリスト協会賞 大賞〈書籍部門〉:『赤い罠 ディオバン臨床研究不正事件』(日本医事新報社)桑島 巖さん

製薬大手ノバルティスの高血圧治療薬ディオバンが高い効果を示すという臨床研究データに早くから疑問をもった循環器内科医が、1通のメールをきっかけにギリギリと不正を追い詰めていく過程は、推理小説のように読者を引きこむ。

東京地裁の公判を欠かさず傍聴して事件の全体像を描く手法も、ジャーナリスト顔負けだ。

一般読者が知らない医学界の実情をも紹介したインパクト、科学性、さらに、テンポある文章が高く評価された。

読み終えたあと、医療の世界もまた、利権構造と競争原理に蝕まれていることを思い知らされる。

もっと見る

閉じる

【書評】日本における臨床研究のあり方に一石を投じた

木村健二郎(JCHO東京高輪病院院長)
執念の力作である。桑島先生は、ARBに降圧を超えた臓器保護効果があるとの製薬会社の宣伝文句に一貫して疑問を呈されてきた。しかし、桑島先生の懸念をよそにARBを販売する製薬会社は次々と日本で大規模臨床試験を行い、大々的にその結果を宣伝に使用していた。

特に、ノバルティスのディオバンを使用した複数の大規模臨床試験の結果は驚くべきものであった。降圧とは独立したディオバンの臓器保護効果として、様々なメディアで大量に情報が流された。学会のシンポジウムで桑島先生がそれらの試験の結果に疑問を表明されたことがあったが、そのときは多勢に無勢という感であった。

その後、一通のメールにより情勢は急展開した。これらの臨床研究の結果の信頼性が揺らぎ、論文の撤回、そしてついには、研究に関与した製薬会社の社員の逮捕にまで至った。その間、この問題に深く関わってきた桑島先生が書かれたものだけに、実に臨場感をもって詳細に経緯が記されている。そこで明らかになったのは、臨床研究体制の杜撰さである。無責任体制と言ってもいいような状態だったことが明らかになった。

本書は、日本における臨床試験の遠くない過去のある時期の実態の記録として貴重である。しかし、この事件は起こるべくして起こったとも言える。医師と製薬会社の癒着、理解不足による杜撰な臨床研究の横行、COIに対する意識の低さ等々を素地として発生した事件である。現在は、製薬会社もこれらの問題に真摯に向き合い、再発を防ぐ体制を整えているし、臨床研究に対してしっかりとした考えを持った若手医師も育ってきている。

「わが国の臨床研究に対する世界的な信頼を回復するために」(本書のプロローグより)多くの医師・医療関係者・製薬会社社員の方々に読んで頂きたい一冊である。

■■■ 日本医事新報(2016年10月22日号)「書評」より

もっと見る

閉じる

★★★★★ 再認識させられます。

Amazonレビューより(2016/9/25)
本来、医療の質を向上させる為に使われるべきEBMを、適切に運用すべき集団が甘い罠に溺れ、国民を欺く行為にメスを入れたドキュメントです。ディオバンで搾取された金額は1兆円とも言われています。この本で我々も再認識しなければならないと感じます。その他の薬も含め氷山の一角でなければ良いのですが。

もっと見る

閉じる

★★★★★ 製薬企業が売り上げの為に人の道を外すとこうなるのね…という例ですな

Amazonレビューより(2016/9/25)
新しい高血圧症治療薬(ディオバン)を売り出そうとしたノバルティス社が、臨床実験のデータを歪めて薬が売れるように広告を作り、さらに医師・大学などに金を撒いて口封じ…。偶然手に取った私のような一般人にも解りやすいようにまとめてくれて有難いし、展開も結構面白く読めました。
不正にかかわった医師や大学はこれから大変だ…。裁判はまだ続いているようなので、ノバルティス社や不正にかかわった人たちが結局どうなったかもいずれ知りたいですね。

もっと見る

閉じる

★★★★★ 医療倫理と利潤追求

Amazonレビューより(2016/10/24)
医療倫理と利潤追求の戦いの経過を記した名著です。
スモン病でキノホルム薬害を起こしたチバガイギー社はサンド社と合併しノバルティス社となり、別の形での新たな「犯罪」を犯したと感じています。医療倫理上問題のある会社が社会から排除されない仕組みは、つくれるのだろうかと暗澹たる気持ちになりました。この「犯罪」には、名誉や出世欲、金銭などに囚われた医療関係者も大きく関与しています。同様の事件の再発を防止するため、この事件の経過を知らせる必要があると感じています。ぜひ社会全般の方々に広く読まれることを願っています。

もっと見る

閉じる

正誤情報

下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。

関連書籍

もっと見る

関連記事・論文

もっと見る

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top