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先生,危険ですよ!─内視鏡検査前の飲水[提言]

No.5060 (2021年04月17日発行) P.54

三田勲司 (聖ヒポクラテス会赤門クリニック顧問/内視鏡検査担当)

登録日: 2021-04-18

最終更新日: 2021-04-14

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〔要旨〕日頃から消化器の内視鏡検査を実施している先生に質問させていただきたい。患者は検査前の注意事項を説明されているはずだが,「それはどのような内容なのか」先生ご自身はご存知だろうか?特に検査前の飲水についてはどのように説明されているだろうか? 「絶飲水」なのだろうか? 「少しなら可」だろうか?それとも「できるだけ多く」だろうか?

1 医師は説明をしていない

検査を受ける側からすれば検査前の飲水がどれだけ許されるかは,切実な問題となる。近年,災害的な猛暑に襲われているわが国では,暑い時期には特に問題は深刻である。検査前の絶飲水を患者に強いることがあれば「熱中症」「脳梗塞」「心筋梗塞」「腎機能障害」などの引き金になるのできわめてキケンである。しかし,残念なことに検査を施行する医師が「どんな説明をしているか」をご存知でないことがありうる。どうしてかと言うと,多くの施設では,医師ではなく看護師により検査前の注意が説明されているので,この飲水についても看護師の担当になっているため,医師は知らないというピットフォールに陥ってしまうことがある(分業が徹底している大きな施設では特にである)。しかし,この検査は医師の責任で管理して実施するのだから,医師は「管理が悪ければこの検査は危険なものになりうる」という認識を持って,医療スタッフの先頭にいるべきと考える。

2 かつて絶飲水は「常態」であった

約20年前になるが内視鏡検査が終わったときに,初老の女性が「ああ,ノドが乾いた。これでやっとお水が飲める」とホッとした顔をして言った。この患者は指示どおりに,前夜午後8時を最後に飲水せずに過ごしていて,お昼前に検査が終わったときには実に約16時間も飲水していないことになっていた。当時は「事故を防止する上でやむをえない」こととして,これが常態であったと記憶している。

3 検査前の飲水の試行

そこで当院では,検査の当日の朝は「水分を飲んできていいですよ」と説明してみた。そうすると,不思議な現象が起こった。ほとんどの患者は「やはり飲んではこない」ことが検査をしてみるとわかる。聞いてみると,これには患者側の考えもあるようだ。当時,他の施設で実施する場合は「水分を飲んできていいですよ」と言われたことはないので,検査がうまくいくためには「やっぱり飲まないほうがいい」あるいは「飲むにしても少なめに」といった配慮が自然に起こってしまうことがわかった。作戦を変更して,飲水の目的をハッキリと説明して納得させることにした。

4 その後の飲水の指導

検査の当日の朝は「十分に水分を飲んできて下さい」と説明する。「どのくらいが十分量か」にコダワル患者もいるので,「排尿が十分」なら水分は足りていると説明して排尿に注意を向ける。飲水が必要な理由を説明し納得させることが肝要で,①長時間にわたって(前日の夜から検査終了まで)水分を摂らないと脱水状態になり体に負担がかかる(これは意外にキケン)。水分を摂ることは脳梗塞や心筋梗塞の予防にもなる。夏季には熱中症の予防にもなる。②十分に水分を飲んでから胃の検査をすると内部がキレイになっているために診断が正確になり検査時間の短縮になる。飲水は胃壁の洗浄効果があり,上部消化管内視鏡の検査の際は,とても有効である。内視鏡に装着して使用する胃内を洗浄する装置が市販されているが,十分な飲水をさせることでこういった装置の出番はグッと少ないものになり,検査時間の短縮に役立つ。患者に水,または,スポーツ飲料(糖を含有するので低血糖を予防する)を勧めるべきである。

また,経験では「飲んできてもいいです」ではインパクトが足りなく,飲んでこないことが多発するので,「いくら飲んできても検査に支障はない」と説明する。

5 絶飲水の歴史的な背景

かつて内視鏡はかなりの太さがある側視鏡が主流であった。実際の発生率は不明だが,水分を摂取させてから検査をすると嘔吐が起こり,「胃液含有の吐物」を誤嚥して肺炎を惹起する可能性があった。このことから,絶飲水にしたと考えられる。これは医療機関によっては現在でも引きずっている旧弊で,「十分に飲みましょう」と積極的に言わないのは,かつての誤嚥の可能性を意識していると思われる。しかし,現行,汎用されている1)内視鏡では,標準的な技量の持ち主が実施すれば,そういった危惧はほとんどない。当院では約1万例の検査で,十分に飲水させることによる不都合は一例もなかった。

6 大腸の場合はもっと深刻

下剤としての水分を2Lも飲んでいるから,これで水分は足りていると患者は思っている。この下剤としての水分はまったく吸収されず,かえって浸透圧で水を引き込むこともある。下剤を飲んだだけで,既に「脱水準備状態」になっているのだが,患者は「水が足りなくなっている」とは,よもや思ってもいない。だから上部消化管内視鏡のときよりも,さらに積極的に飲水を推奨する必要がある。下剤を飲み終わって排便がすんだときからが「脱水との勝負になる」と認識させて,今度は,排尿するまで飲水するといったスローガンで指導する。

7 検査マニュアルについて

日本消化器内視鏡学会が監修した「上部消化管内視鏡スクリーニング検査マニュアル」1)によれば,飲水については「検査直前まで透明な飲用水の摂取に制限はない」とあり,本稿の主張は適切と考える。

8 先生,お願いです!

当院では,この検査前の十分な飲水で,絶対に偶発してはいけない梗塞などの危険から患者を守ってきた。先生,お願いです!お使いの検査マニュアルの検査前の飲水を是非,すぐに確認していただきたい。


(注)

以上は,主としてスクリーニングを目的とした,上部と下部の消化管内視鏡検査で,セデーションを行わない場合を想定している。これは多くの施設でルーチンワークとして日常的に実施されている。たとえば,食道ヘルニアがあれば水分の摂取によって,時には検査の体位(側臥位)をとらせただけで,食道上部まで水分の逆流が見られることがある。これでも患者が覚醒状態にあれば,なんら問題なく安全に検査が可能である。まずは視認できる水分を吸引しながら検査を開始すれば,誤嚥などの事故は起こらないからである。しかし,大きな施設では,内視鏡を使用しての検査はもとより,セデーションを必要とする様々な処置が実施され,しかも,処置用の太い内視鏡を使うことがありうる。このようにセデーションが必要な場合は,前処置に特別な配慮をすべきである。たとえば,飲水制限をするとともに,早めの来院要請と点滴で待機させてから予定した処置を開始するなどの方策が考えられる。

実施予定の個々の処置に応じて,医師が的確に指示することによって,はじめて安全性が確保される,という問題意識を医師自身が持つべきである。また,セデーションの有無にかかわらず,一般にこうした準備手順はいったんマニュアル化してしまうと,不都合が起こらない限り再検討の機会もなく,長期間にわたって不変で「処置,年齢,季節に応じて対応を変える」こともなく,画一的になってしまうので留意すべきと考える。

【文献】

1) 日本消化器内視鏡学会, 監修:上部消化管内視鏡スクリーニング検査マニュアル. 医学図書出版, 2017, p34.

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