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患者の治療と仕事の両立支援(総論・前編)─仕事を考慮した治療選択の提示で,働く患者への社会的処方を[プライマリ・ケアの理論と実践(66)]

No.5019 (2020年07月04日発行) P.12

武藤 剛 (北里大学医学部衛生学講師・千葉大学予防医学センター・新浦安虎の門クリニック(共に非常勤))

登録日: 2020-07-02

最終更新日: 2020-07-01

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SUMMARY
両立支援は,働く患者に対する社会的処方として,国際的にもプライマリ・ケアの現場で広まりつつある。患者の仕事情報は,診断に至る過程に加え,治療方針の選択でも重要な意味をもつ。主治医の一言によって,疾病は治癒できても患者の人生(仕事)は犠牲になることがあることを日常臨床で日々意識したい。。

KEYWORD
治療と仕事の両立支援
働く意欲と能力のある患者が,仕事を理由に治療機会を逃すことなく,また,治療を理由に仕事を妨げられることが少なくなるよう,医療機関・社会(職場)の両者が連携しながら支援すること。

武藤 剛 〔北里大学医学部衛生学講師・千葉大学予防医学センター・新浦安虎の門クリニック(共に非常勤)〕

PROFILE
千葉大学医学部卒業後,国立国際医療センターで初期研修・膠原病内科診療に従事(ベスト研修医高久史麿賞受賞)。PMDA専属産業医,日本医師会武見国際フェロー(Harvard公衆衛生大学院)を経て,現職。日本内科学会総合内科専門医・日本産業衛生学会専門医・労働衛生コンサルタント・社会医学系指導医。

POLICY・座右の銘
夢見て行い,考えて祈る

1 治療と仕事の両立支援とは

「両立支援」という言葉に対し,何をイメージするであろうか?自分自身であれば,仕事とプライベート(趣味や,パートナーとの関係・結婚・育児・介護,あるいは臨床と研究)の両立を考える方が多いであろう。臨床現場で,目の前の患者に対する両立支援として,今ホットな話題の1つが,「治療と仕事の両立支援」である。

治療と仕事の両立支援とは,「働く意欲と能力のある患者が,仕事を理由に治療機会を逃すことなく,また,治療を理由に仕事を妨げられることが少なくなるよう支援すること」1)2)である。具体的には,たとえばがんで外来化学療法を平日午前に継続受療している患者が,仕事の継続(stay at work)を希望するが困難を抱えている場合や,血糖高値を毎年職場の定期健診で指摘され1,2回は受療するも,受療時間の確保困難や優先順位の低下などの理由で自己中断することが繰り返されている場合への患者に対する支援のことである。

両立支援は,産業保健領域では以前からメンタルヘルス不調の職場復帰(return to work)を中心に実践されてきていたが,ここ10年ほど,特にがんと診断・告知された患者が,本当は仕事を続けたいのに周囲に迷惑をかけられない等の理由で「ビックリ退職」する事例を少しでも減らすこと等を目的に,その概念がより広範な疾患で認知されてきている。その背景には,治療の進歩による予後改善(仕事と両立できる疾病の増加)・少子高齢化進展による労働力不足(高年齢有病就業者の増加)・企業の人材活用への取り組み(diversity and inclusion)が挙げられる。グローバルにみても,英国でGP(general practitioner,家庭医)がSick note(病休診断書)のみならずFit note(就労両立意見書)を発行するように3)4),social prescribing(社会的処方)の観点でも患者の職業生活を支えることで,治療や健康アウトカム向上をめざす動きがみられる。

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