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在宅医療において医師・看護師以外の者が抜針を行うことは可能か?

No.4984 (2019年11月02日発行) P.56

洪 英在 (三重県立一志病院家庭医療科)

登録日: 2019-11-04

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現在,在宅医療を行っています。補液を追加したい場合(食事を挟むなど),患者の希望があって,在宅で追加の補液を行う場合があります。この際,抜針を患者にゆだねることは違法でしょうか。また,ヘパリンロックをして帰宅してもらう場合,「もしアクシデントがあったら」と,抜針について話し,アルコール綿,止血用セットなどを渡して,本人あるいは家族に抜針をゆだねることはいかがでしょうか。
抜針について違法行為とされたとの報道があったとも聞きますが,どう考えるべきか,ご教示ください。(北海道 K)


【回答】

【抜針する者が患者と特定の関係にあり,違法性の阻却の要件に該当すれば,違法ではないとも解釈できる】

私は,法律の専門家ではなく,在宅医療の現場で働いている一医師です。本人,家族に抜針をゆだねることが実際にありますので,それを法律面でどうなのかを自分なりに調べた結果を回答させて頂きます。

医師法第17条には「医師でなければ,医業をなしてはならない」とあります。また,厚生労働省の通達によると,医業とは「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を反復継続する意思をもって行うこと(業)」1)とあります。よって,抜針が違法になるのかどうかは,

・抜針が「医行為」となるのかどうか
・反復継続する意思を持って行う「業」に当たるのか

というところが論点になります。

医行為かどうかは,厚労省が2005(平成17)年,医師や看護師との連携のもと,という一定の条件はあるものの,バイタル測定(体温,自動血圧計での血圧測定,SpO2測定),簡単な傷の処置,軟膏塗布,湿布貼付,点眼,内服介助,座薬挿入,爪切り,口腔ケア,耳垢除去,人工肛門内の排泄物処理,浣腸,自己導尿の補助などは,医行為とは言えない,という通達を出しています1)。ストマ装具のパウチ交換も2011(平成23)年に追加されました2)。ここで挙げられた行為に関しては,医行為ではないために,家族が行っても問題がありません。抜針に関してですが,ここで挙げられている行為にないために,医行為に該当することになります。

すると,家族が行う抜針行為が「業」に当たるのかどうかが問題になります。「業」とは対価を得ることは要件ではなく,反復継続する意思があれば,「業」に当たりますので,家族が今後も点滴の際に抜針する,ということなら「業」と受け取られる可能性があります。しかし,不特定の者を対象とすると「業」になる,という解釈も一部あるようで,自己や家族という特定の者に対する行為は「業」とはならない,とも考えられます。基本的には医師法第17条の違反要件に該当する可能性が高いものの,解釈によっては違法ではない可能性がある,とグレーゾーンの行為になります。

もう1つの解釈が「違法性の阻却」という考え方です。「目的の正当性(患者の療養目的のために行うもの)」「手段の相当性(医師,看護師による管理,適切な教育,緊急時の支援体制の確保など)」「法益衡量(行為による侵襲の度合いと患者が得る生活の質の向上の比較)」「法益侵害の相対的軽微性(侵襲性が低く,家族という特別な関係にある)」「必要性・緊急性」という要件が揃えば,違法性が阻却される,というものです。これは,インスリン自己注射が違法かどうかの際に提示された考え方です3)

このように,「特定の関係にあること」「違法性の阻却の要件に該当すること」が満たされて初めて,違法ではないとも言える,ということのようです。侵襲の度合いを考え,必要最小限に,医師や看護師の適切なバックアップ体制をとる,など違法性の阻却で提示された要件を満たした上での家族の抜針なら,違法ではない,と解釈できそうです。いずれにしても慎重に行う必要がある行為になるようです。

【文献】

1) 厚生労働省:医師法第17条, 歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知). 医政発第0726005号, 平成17年7月26日.
[https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2895&dataType=1&pageNo=1]

2) 厚生労働省:ストーマ装具の交換について(回答). 医政医発0705第2号, 平成23年7月5日.
[https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb7471&dataType=1&pageNo=1]

3) 厚生労働省:医事法制における自己注射に係る取扱いについて. 中医協 診-1-2, 平成17年3月30日.
[https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/dl/s0330-7b.pdf]

【回答者】

洪 英在 三重県立一志病院家庭医療科

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