前立腺癌患者に去勢を施すことにより前立腺癌に対する内分泌療法の有効性を証明し,1966年にノーベル生理学医学賞を受賞したHugginsらの業績は,発見から80年近く経った今もなお前立腺癌に対する内分泌療法の基礎となっている1)。すなわち,未治療転移性前立腺癌に対する基本的な治療方針は,アンドロゲン除去療法(androgen deprivation therapy:ADT)である。最近になりようやく,アンドロゲン受容体標的薬の有効性も確認されつつあり2),転移性前立腺癌に対して転移の量によらず全例ADTを行い,去勢抵抗性を獲得した段階で抗癌剤を投与していた時代から,転移性前立腺癌も転移量によって層別化して治療方針を決めていく方向に,少しずつパラダイムシフトが起きている。つまり,より積極的に治療をしていく姿勢になりつつある。転移性前立腺癌に対するcytoreductive surgeryなど,10年前には考えもつかなかった治療方針である。
内分泌未治療転移性前立腺癌を対象に,原発巣に対するcytoreductive prostatectomy(CRP)や放射線治療といった局所治療についていくつかの臨床試験が現在進行中である。しかし,内分泌未治療転移性前立腺癌とはいえ,すべての症例に局所治療の有効性を期待することは現実的ではなく,転移の量によって転移性前立腺癌を層別化し治療方針を決定することが望ましい。つまり,局所治療は微小転移性前立腺癌を適応と考えるのが妥当であり,それを示唆する報告も散見される3)。ただし,微小転移を伴う前立腺癌症例の中でも,局所治療の有効性が期待できる症例を選別しうる有効な臨床的な基準を確立することが喫緊に解決すべき課題である。
微小転移を検出する画像診断技術として,コリンPETやPSMA-PETが登場し,循環腫瘍細胞(circulating tumor cell:CTC)をモニターすることが可能となれば,画像診断と併せて強力な効果判定や予後予測のモダリティになりうるが,リアルタイムながんの病勢を完全に把握することは現状では困難である。