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【医院建築探訪(6)〈新宿三丁目えきちかクリニック(東京・新宿区)〉】忙しい現役世代の健康管理をサポートする“都市型”クリニックに

No.4954 (2019年04月06日発行) P.12

登録日: 2019-04-05

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受付と待合室は、無機質にならないよう素材感の異なる内装材を用いているため表情がある。

都市部で新規開業するクリニックは、コストや集患といった観点からテナントビルに開業する、いわゆる“ビル診”が主流となっている。関東信越厚生局のデータによると、2019年2月に東京都で開業した30のクリニックのうち29がビル診という状況だ。連載第6回はビル診の事例として、10坪という狭小なテナントに必要最小限の機能をコンパクトに盛り込んだクリニックを紹介する。【毎月第1週号に掲載】

新宿三丁目えきちかクリニックは2018年12月、地下鉄新宿三丁目駅の出口に直結したビルの地階に開業した。同院の特徴は、平日は17〜22時半、土曜は15時〜20時、日祝日は午前中という変則的な診療体制にある。

院長の三浦洋菜さん(写真)は、日本外科学会の専門医として大学病院や一般病院でキャリアを重ねていく中で、「もっと普通に身近な医師としてたくさんの患者さんと接したい」との思いが強くなり、都内の内科・外科クリニックでの勤務経験を経て開業を決意した。

「クリニックでの診療を通じ、『具合が悪いけれど、夜間や土日に大きな病院に行くほどではない』『重症ではないが、待っているのが辛い』『病院に行くべき症状なのか診てほしい』といったニーズに応える初期治療外来を提供したいと考えるようになりました」

テナント面積が大きなハードルに

三浦さんがこのコンセプトに基づき、重視したのは立地。そのため百貨店やオフィスビルが付近に立ち並び、夜間でも人通りの多い地下道直結のビルを選んだ。

一方で開業に向けて大きなハードルとなったのは、テナント面積がわずか30.5㎡(9.22坪)と狭小であること。医療法では無床診療所の面積に関する規定は設けられていない。しかし同院は内科・皮膚科を標榜しており、心電図やエコー検査、皮膚科の処置などを行うことを想定していたため、いかに無駄をそぎ落とし、限られた空間を効率的に活用できるかが、設計における大きな課題となった。

医療に特化した設計事務所に依頼

三浦さんが、不動産業者経由で紹介された複数の設計事務所の中からパートナーに選んだのは、メディカルケア施設に特化した設計事務所リチェルカーレ(http://www.ricercare.co.jp/)。

多くのメディカルケア施設の設計を手がけた実績から、例えば医療機器の取り扱いがスムーズに行えるよう電源を取るコンセントの位置にまでこだわるなど高い機能性とデザイン性を兼ね備えた設計を得意とする。建築設計・施工・管理業務に加え、医療コンサルティングや税理士・弁護士といった各分野の専門家と連携しており、開業を検討する段階から必要に応じ安心して相談できるサポート体制が整っている。

三浦さんはリチェルカーレに設計・施工を依頼した理由についてこう語る。

「医療分野に特化した設計事務所だったので、クリニックに必要な機能についてとても詳しく、頼れると感じました。また担当が2人体制で、どちらの方も的確な意見をやさしく丁寧に説明してくださり、相談しやすい雰囲気も決め手になりました」

30㎡でも窮屈さを極力感じさせない工夫

同院は「過去に手がけた物件でも例のない狭小スペース」(リチェルカーレ設計士)という条件の中、限られたゾーニングを余儀なくされたが、受付、診察室(写真2)、処置室(写真3)、待合室(写真4)、トイレといったクリニックに必要なスペースはすべて確保。クリニックのコンセプト次第では、狭小スペースでのクリニック開業の可能性を広げられることを示した事例と言えそうだ。

三浦さんが設計でこだわったのは、外観は入りやすい印象であること、院内は窮屈さを極力感じさせない居心地を実現することの2点だった。

受付・診察室はエントランス部分のガラス張りの効果で待合室の開放感を演出。外からはクリニックのアイコン的存在のミッフィーのペンダントライトなど院内の明るい雰囲気が伺えるように工夫した。目線までの高さには磨りガラスを使用し、院内にいる患者のプライバシーにも配慮した。

内装は、落ち着いたカラーを基調にシックにまとめつつ、診察室や待合室には医療機関用でない鮮やかなカラーのデザイナーズチェアを配置し、アクセントとなっている。床には質感のあるタイル地のシートを使用。受付・待合室は暗め、診察室・処置室は明るめのものとそれぞれカラーを使い分けている。

同院の計画は、リチェルカーレ担当者と三浦さんが打ち合わせを何度も重ねながら進んだ。当初三浦さんは「クリニックに来たことを感じさせないようにポップな内装にしたい」との思いから、緑がかった水色の“ティファニーブルー”をテーマカラーに考えていたが、患者目線に立った現在のシックな内装に落ち着いた。「行き過ぎる私の意見を採り入れつつ、最終的にクリニックとして違和感のないような形に修正してくれたので感謝しています」(三浦さん)

打ち合わせでは、椅子の張地や床・受付台のシート、壁紙に至るまでサンプルを取り寄せて、一緒に選ぶというプロセスを踏んだため、仕上がりは三浦さんのイメージ通りだったという。

「1つ1つのインテリアに至るまでとことん選ばせてもらいました。そのおかげもあって患者さんからは『狭いけれど息苦しくはないね』『可愛い』という声をいただいています。開業前は忙しく時間がなかなか取れませんが、開業医はほとんどの時間をクリニックで過ごすことになります。ストレスなく診療を続けるためにも、すべてを業者さんに任せてしまうのではなく、自分で納得いくまで選び、決めていくのも楽しい作業になると思います」

現役世代のニーズに応えたい

開業から3カ月が経過し、医療の提供や集患は三浦さんの想定通りに進んでいるという。

「今後もう少しクリニックの運営が軌道に乗ってきたら、高血圧や高脂血症、糖尿病、甲状腺疾患などの慢性疾患を指摘されているのに、フルタイムで勤務していたり、家事や育児に追われていたりするなどさまざまな事情で医療機関から足が遠のきがちな患者さんのライフスタイルに応じた形で、質の高い医療を提供できるようにしていきたいと考えています」

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