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医史からみた妊産婦の命を守る闘い①─回転術[エッセイ]

No.4954 (2019年04月06日発行) P.60

水田正能 (安来市立病院地域医療部長・婦人科部長)

登録日: 2019-04-07

最終更新日: 2019-04-02

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現代でも妊娠や出産にリスクはつきものであるが、歴史的に妊娠や出産に伴って、多くの命が失われてきた。難産になり、児が娩出せず分娩が完結しなければ、産婦の命は失われることになる。また、前置胎盤や弛緩出血などによる出血で、命を落とした産褥婦も珍しくなかったであろう。抗生物質がなく、ましてや感染に対する知識がなかった時代では、多くの危険が存在した。かつての助産に携わる人々の苦労や努力がしのばれる。

そこで、いろいろな書物から時代的な取り組みをみてみよう。

かつては佝僂病などによる骨盤の変形なども多く、妊娠管理も不十分であったために、難産は珍しくなかったと推測できる。ただし、胎位異常があったとしても、順調に分娩が終了すれば、特別な産科の知識は必要としない。頭位であっても難産となったときに古来より最も行われていたのは、足位に変える回転術である。現在、回転術と言えば帝王切開になる可能性の高い骨盤位を、外回転で頭位にするものであるが、鉗子もない時代に、頭位のままで娩出が困難になれば、内回転術を行い足位にしたほうが、娩出を完了する確率は明らかに高まるのである。そこで、自然に排臨まで進まないと判断した場合には、破水させ児の胎位を確認して、状況に応じて内回転術を施行したと思われる。

回転術は書物上ではSoranos d' Éphèse(98~138)に始まるようである。彼以前には子宮には角があるという盲信があったというが、彼は、多くの解剖によりそれを否定した。その彼は「頭位回転はこれが容易に行われるときには行うべきであるが、困難な場合には足位回転を試みるべきである」と言っている。

足位回転術はEucharius Rösslin(1470~1526)の、産科学の最初の専門書である『妊婦と助産婦について』(1513年)にも記されているという。Jacob Rueff(1500~1558)が書いた『妊娠と出産』(1554年)で、彼は条件付きで足位の分娩に賛成して、さらに上肢解出法には触れていないが、頭部に外側から圧力を加えるように勧めていた。日本産科婦人科学会雑誌の研修ノートにも、後続児頭娩出法の項に、「児頭娩出の際に、助手に母体恥骨結合上を圧迫してもらうとより効果的である」とあり、16世紀も現代も大きな差異はない。

小川政修は名著『西洋醫學史』で、「足位廻轉術を學術的に精敍して、重要なる産科學的意義を附した第一は、近代外科の父であるAmbroise Paré(1510~1590)で1550年であった。別にPierre Franco(1505~1578)もまたこれを述べ、Paréの高弟ヂヤック・ギイユモー師説を敷衍した」と書いている。Jacques Guillemeau(1550~1613)は、足位回転後の娩出に関して適用症候を補足し、胎児の背が前向きになるように回転させることを指示している。

19世紀初頭の助産婦であるMarie-Louise Lachapelle(1769~1821)は、幼時より助産婦としての訓練を受け、15歳のときに既に難産の症例に内回転術を行って、無事に出産せしめたと言われている。フランスを代表する産科医であったFrançois Mauriceau(1637~1709)も、異常分娩に足位回転術を勧めた。

外回転術も行われており、Braxton Hicks収縮に名を遺す Hicks(1823~1897)は、子宮頸部に指を挿入して回転を助けたし、胎児縮小術の器具を創案したCarl Braun(1822~1891)らも、同様な手技を試みた。現在、外回転術では、内診を補助的にして外回転術を行う施設もあるが、古来より同様のことは行われていたのである。Adolphe Pinard(1844~1934)は、著書『Traité sur le palper abdominal et la version par manuæuvres externs』(1878年)で、外診法による回転法を完全に記載している。

現在、横位になれば、経腟分娩は不可能で帝王切開となると思われているが、産科手術ではないが、Thomas Denman(1733~1815)は自然力による分娩を研究し、前置した胎児の腕が自己回転する過程を詳しく観察し、きわめて例外的ではあるが横位でも自己娩出することがある、と記載した。この回転は彼の名をとってDenman spontaneous evolutionと呼ばれていたが、現在の教科書には記載はない。

最近は分娩の進行が滞ると、帝王切開を選択する症例が多い。胎児の安全性からは当然の帰結であるが、手術を安全に行えない時代では、助産者の回転術の技術は、母体の命を救う大きな手段であったのである。

【参考】

▶ 大矢全節:産と婦. 1960;27(4):261.

▶ ルチャーノ・ステルペローネ:医学の歴史. 小川 熙, 訳. 原書房, 2009.

▶ 小川政修:西洋醫學史. 眞理社, 1947.

▶ マイヤー・シュタイネック, 他:図説医学史. 小川鼎三, 監訳. 朝倉書店, 1982.

▶ 小南 游:医事新報. 1983;3072:62-4.

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