【SGLT2阻害薬は心血管イベント抑制だけでなく,腎保護作用を示す】
糖尿病初期には糸球体濾過量(GFR)が上昇する。糸球体で濾過されたブドウ糖が増加すると,近位尿細管細胞に局在するsodium/glucose cotransporter 2(SGLT2)により再吸収されるブドウ糖が増加し,その結果緻密斑に到達するクロライドが減少し,尿細管・糸球体フィードバック(TGF)システムにより,糸球体輸入細動脈が拡張する。これに伴う糸球体過剰濾過は,尿蛋白の増加や糸球体病変進展につながる。糖尿病性腎症の進展を抑制するための第一選択薬として,輸出細動脈を拡張させることにより糸球体過剰濾過を是正するレニン・アンジオテンシン系(RAS)抑制薬が用いられてきた。
近年臨床応用されたSGLT2阻害薬は,糖尿病に伴う糸球体過剰濾過を是正する薬剤として注目されている。実際,大規模臨床研究においても,SGLT2阻害薬は心不全などのアウトカムを改善するだけでなく,アルブミン尿の改善やクレアチニンの2倍化,腎代替療法への導入も有意に抑制していることが報告された1)2)。糖尿病に伴う輸入細動脈の拡張に対して,RAS抑制薬が輸出細動脈を拡張させるのに対し,SGLT2阻害薬は輸入細動脈の拡張を是正することから,糸球体過剰濾過の根本的な改善となっている可能性がある。さらにSGLT2阻害薬は,尿細管細胞による過剰なブドウ糖再吸収を抑制することによる非血行動態的な腎保護作用を有する可能性もある。
【文献】
1)Wanner C, et al:N Engl J Med. 2016;375(4): 323-34.
2)Neal B, et al:N Engl J Med. 2017;377(7):644-57.
【解説】
猪阪善隆 大阪大学腎臓内科教授