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シーボルト(8)[連載小説「群星光芒」131]

No.4710 (2014年08月02日発行) P.72

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-28

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  • 「高橋がみだりに異人と書信を交わし、わしの北方探検をベラベラ喋り、剰え断りもなくわしの樺太地図を異人に閲覧させたことが明らかじゃ。おぬしらは大胆にも高橋が国禁を犯したことが判らンのか。それでよくお役目が勤まるもンじゃ」

    間宮林蔵の叱責に奉行所の者はだれもが縮みあがった。

    「目下、御庭番、御目付、御小人目付らに高橋の家族や朋友、天文方の実情など身辺を洗わせおる。高橋をしょっぴくには奴が蘭人に贈ったかもしれねェ御禁制品を見つけ出さねばならンが、出島の異人部屋にはそうやすやすとは踏み込めねェ。来年にはシーボルトも帰国しようが、その前に確たる証拠をあげねば万事水の泡だ」

    そういって盃を飲み干した林蔵は両膝をゆするようにして、

    「先日わしは辰之口の評定所へゆき、留役の方々にシーボルトは密偵である、と告げてやった。もし彼奴が偽オランダ人ならすぐさまつまみ出さねばならンから大公儀も本気でお取り調べをなさろう。だが気がかりなのは長崎奉行の采配ぶりじゃ」と香川赤心にむかって渋面を拵えた。

    「長崎奉行の俸給は高額、役得もたンまりで幕臣だれもがうらやむ役職だっぺ。ところが着任するのは現地の事情などからっきし判らねェ旗本ばかり。実権は地役人の町年寄や乙名にがっちり握られて奉行なんざァ飾物にすぎねェ。ここは腕利きの目付検使を現地に遣わして、シーボルトの身許と悪業を暴きたてねば埒はあくめェ。わしには長崎奉行のはたらきがじれったくてたまらねえンだ」

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