遺体を美しく送り出す納棺師という職業に焦点を当て、滝田洋二郎監督が繊細に描き出す。2008年に公開、セディックインターナショナルよりDVDが発売
日本映画初の第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞、および第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した「おくりびと」。遺体を清め化粧を施し棺に納める納棺師の話だ。
チェロ奏者・小林大悟(本木雅弘)は所属オーケストラの解散を機に、妻を連れて故郷の山形に戻る。大悟は、新聞の求人欄でみつけた“旅のお手伝い”をする会社へ面接に行く。女性事務員と社長だけの会社は、遺体を棺に納める仕事を行っていた。高額な給料に惹かれ、見習として入社した大悟は、徐々に納棺師としての仕事に価値を感じていく。
作中、一見女性に見える男性が亡くなり、化粧を男性用にするのか女性用にするのか遺族に問いかけるシーンがある。残された遺族は戸惑いを見せるものの「女性用の化粧で」と決断する。遺族は女性の化粧が施された故人と対面すると、ようやく名前を呼び、悲しみを露わにするのだ。おくりびとが生前の“その人らしさ”をよみがえらせることで、遺族の中で今まで受け入れ難かった故人の“ありのまま”を受容し、素直に悲しみを吐露することができたのである。
この映画を観た当時の僕は、後期研修医で外科医として診療する傍ら、いい医療とはどのようなものか模索をしていた時期だった。「どのような患者でも自宅でその人らしく生活できるように」。病気と生活、周りの人との関係性、家族や遺族の心のケアまで関われるような医療が理想。今の当院の理念はここから影響を受けているのかもしれない。
田舎の空を飛ぶ白鳥の美しさ、鮭が生死をかけて生命を繋ぐ川、雄大な自然と命が共生する美しい背景。登米市で診療している折、同じような美しい田舎の風景を眺めていると、あの頃の気持ちを思い出すのだ。