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初監修!『遺伝子─親密なる人類史─』[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(188)]

No.4895 (2018年02月17日発行) P.62

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2018-02-14

最終更新日: 2018-02-13

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遺伝用語が改訂される。以前から、優性と劣性は表現型の優劣かのような誤解を招くなどと言われてきたから、遅すぎるくらいである。優性が顕性、劣性が潜性になるようだ。素晴らしい!というほどの用語ではないが、優劣よりはましなように思う。

「突然変異」を「変異」にという提案もなされている。もとになったmutationには突然という意味合いがないし、何をもって突然というのかも難しいので、それもよかろう。しかし、変異というのは、遺伝関係以外でも一般的に使われる言葉なので、必ずしもベストフィットという気はしない。むしろ、無理に訳さず「ミューテーション」でいいと思うのだが、いかがだろう。

カタカナ語が好きという訳ではないが、明治時代じゃあるまいし、あまりふさわしくない日本語に無理矢理置き換えることもなかろう。そうすることによって、誤解や曖昧さを招きかねないし。

などとぶつくさ言うてるのにはワケがある。『The Gene』の翻訳を監修したのだ。ピューリッツァー賞に輝いたあの名著『がん4000年の歴史』(ハヤカワ文庫NF、『病の皇帝「がん」に挑む』から改題)の著者、腫瘍内科医であるムカジーの大作である。

メンデル、ダーウィンから最新のゲノム編集の話まで、長いけれど、息をつかせぬ面白さである。言うまでもなく科学的読み物なのだが、かつての優生学や「民族浄化」、着床前診断、デザイナーベビーといった、遺伝子と社会の関わりにも多くのページが費やされていて、圧倒的な読み応えだ。

監修で頭を悩ませたのは、mutationやvariantをどう訳すか。前者は、これからのことを考えて基本的に「変異」にした。しかし、たとえば放射線を照射して生じるような場合などには、よりふさわしかろうと「突然変異」を使ったところもある。

少し悩んだけれど、顕性・潜性はまだ一般的ではないので、旧来の優性・劣性のままに。variantには「多様体」という訳語があるにはあるけれども聞いたことがない。なので、「多型」や「変異」と使い分けた。

新しい用語がすぐに書物や教科書で使われ始めても、人々の頭の中で完全に書き換えられるには、相当な年月がかかるだろう。それぞれの学術用語に込められた概念を再確認しながらの監修、あらためて言葉の大切さを考えさせられましたわ。

なかののつぶやき

「HONZ(http://honz.jp/articles/-/44609)に、本書の解説(by 仲野)をアップしてあります。ぜひお読みください!」

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