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【私の一冊】夜と霧

No.4894 (2018年02月10日発行) P.67

和座一弘 (わざクリニック院長)

登録日: 2018-02-06

最終更新日: 2018-02-06

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ユダヤ人精神分析学者ヴィクトール・E・フランクルがみずからのナチス強制収容所体験をつづった書。写真は2002年にみすず書房から刊行された新版(池田香代子訳)

「態度価値」実現した患者さんの笑顔

かかりつけ医にとって、看取りは、死を前にしての患者さんの態度から様々な人生のありかたを学ぶ貴重な機会である。胃がんの末期で腹水があり、骨への転移もある初老の男性を自宅で看取った時のことである。ある訪問時に、モルヒネ注射のためにアルコール消毒をしている際に、「先生、最近どうもお酒に弱くなってしょうがないよ。このアルコールの匂いで、酔っ払ってしまうね」と笑顔で軽口を叩き、奥様も含め周囲が和んだことがあった。自分が逆の立場で、このような粋な態度を保つことができるのか自問したものである。

「夜と霧」は、ご存知の方も多いと思う。かの悪名高きアウシュビッツ強制収容所での精神科医ヴィクトール・E・フランクル教授の体験記録である。ここでは、3つの生きるための価値が述べられている。1つは、「体験価値」である。自然とのふれあいや人間との絆の中で実現される価値である。2つ目は、仕事等で、自己を実現する「創造価値」である。ここで大切なことは、仕事の内容ではなく、その仕事にどれだけ最善を尽くしたかである。

しかし、これらの2つの価値が全て機能しない場でも、変えられない運命に直面して、例えば、死を前にした究極の状態でも、その人がどんな態度を示すかで実現する第3番目の「態度価値」があるとフランクル教授は語りかける。「強制収容所を経験した人は誰でも、自分の死を前にして、最後のパンの一片を他の人に与える人間の姿を知っているのである」。

本書のこの記述に到達するたびに、がん末期の状況でもなお周囲への思いやりを忘れない「態度」を示した、ユーモア溢れる粋な初老の男性の笑顔を思い起こすのである。

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