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アルツハイマー病の早期診断と早期治療が可能になる日[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.19

柳澤勝彦 (国立長寿医療研究センター研究所所長)

登録日: 2018-01-01

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標題のその日を夢見、筆者はアルツハイマー病に取り組んでいる。初めから理屈の話で恐縮だが、ここで「診断」は「脳内病理変化の検出」を意味し、「治療」は「薬物あるいは非薬物の介入による二次予防」を意味する。すなわち、認知機能障害出現(発症)の前に、アルツハイマー病の病理変化をとらえ、これを封じ込める手立てによって、アルツハイマー病の制圧をめざすものである。「早期診断・早期治療が大切です。おかしいと気づいたら、少しでも早く専門の先生の診察を受け、早くお薬をのみましょう」とよく聞く。しかし、発症の段階で脳は相当程度損傷されていて、その欠損を補填することも、進行を止めることも、残念ながら、現在の医学ではできない。確かに、アルツハイマー病に処方可能な薬はあり、適切な介護によって症状は安定し自立が促されることも期待される。ただ、現在の薬の効果は限定的であり、アルツハイマー病は、依然、アンメットメディカルニーズが最大の疾患であることは正しく認識されるべきだろう。

まだ先と思われた2025年が不気味に迫ってきた。アルツハイマー病の制圧に向け、関係者は「サイロに閉じこもる」ことなく、垣根を越えて協力せねばならない。幸い、この1、2年、上記の「診断」と「治療」に光明が見えてきた。前者では、費用の問題は残るものの、脳内変化のPETによる描出精度が格段と高まった。「アミロイド蓄積→タウ蓄積→シナプス障害」が可視化されたことの意義は大きい。さらに、実用性で断然優れる血液検査の可能性も見えてきた。後者では、ある種の抗アミロイド抗体にこれまでにない効果が確認され、注目を集めている。一方で、脳に保護的な生活(良質の食事、運動、睡眠など)が認知症の発症予防に有効であることが科学的に示されつつある。

「アルツハイマー病の早期診断と早期治療が可能になる日」は必ずやってくる。中高年の皆さんが認知症に怯えることなく意欲的に生活し、若い世代がこれらの人生の先達と親しく交わり、多くを学べたら、素晴らしい。それはきっと豊かな社会だろう。

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